葵にすべてを打ち明けたことで少しだけ心が軽くなり、表情が変わったのが自分でもわかるくらいだった。

「耕史…。あれって…。」

席に戻る途中に視界に入ってきたのは俺らが座るテーブル席の横に立つ松田の姿だった。

「アイツ…っ!」

急いで席に戻ったが少しばかり遅かった。

『パシャっ!!』

松田が頭から奈々ちゃんにコップの水を浴びせていた。

 一体なんでこんな展開に…!?

松田は俺の存在に気づき近づいてきた。

「せんぱーい。私、思い出しました。彼女、通学途中会ってますよね?嘘はダメですよ。う・そ・は!!!!」

すれ違い様に松田にそう言われて背筋にひやりとするもが駆け巡った。奈々ちゃんに水をかけ、俺に言いたいことを言ってスッキリしたのか、父親たちの席に戻っていった。

「彼女ヤバいって…。完全に頭壊れてるって…。」

タケっちが視線の先に松田をとらえたまま呟いた。

「…一体なにが?」

奈々ちゃんにハンカチを渡して拭きながら尋ねる。

「それが…。なんでこうなったのかが良くわからなくて…。あはは…。」

何故水をかけられたのか理解できず呆然としていた。

「耕史、奈々たちにも話しておいた方が良さそうだぞ…こりゃ。」

「そうだな…。」

水を頭から浴びせられた様子を見てたレストランのスタッフがタオルを持って来てくれた。そして弥椰さんの彼氏さんに連絡をしたようで、彼氏さんがホテルの部屋を一つ用意してくれたので、服を乾かすためにそこに皆で移動した。

下層階の部屋だったが、セミダブルのベッドが二つ並ぶ部屋はさすが高級ホテルと言った雰囲気だった。

「かけられたのが水で良かったよ。直ぐに乾かしてくるね!」

なんと楽観的なんだ!そう言うと奈々ちゃんはドライヤーの設置されているパウダールームへと入って行った。ほぼ同時に部屋の扉が開いて弥椰さんの彼氏さんも部屋に来てくれた。

「いやー、変なお客様に絡まれてしまったみたいで災難だったね。弥椰には連絡しておいたからバイトが終わったらここにくるってさ。」

「ご迷惑をおかけしてすみませんでした。お部屋ありがとうございました。」

頭を下げた時に今更ながら彼氏さんのネームプレートに目が行った。『副支配人:西園寺』と書かれていた。

「えっ!?彼氏さんってここの副支配人なんですか!?」

「えっ?そうだけど?弥椰からきいてない?このホテル、親父が経営してるんだ。コネで入社した感じで情けないでしょ。」

「そんなことないです!だからお部屋を直ぐに用意してもらえたんですね…。助かりました。」

奈々ちゃんの服が乾いたころ、弥椰さんも部屋に来たので先ほど葵に打ち明けた話を彼氏さん含め俺が奈々ちゃんの事を女の子として好きだと気づかれない様に話をした。

「そう言うわけで…、奈々ちゃんが俺のことを好き。または逆のことを思い込んでの行動だったのかと…。巻き込んでしまってすみませんでした。」

「何だか危ない女の子だね。その子。高校生とは言え、解決するには大人が必要な場合もあるんだ。まず、耕史くんはお父さん、少なくともお兄さんにはこの話をするように。」

「…はい。わかりました。」

いつも、弥椰さんにベッタリで尻に引かれているような柔らかい雰囲気しか感じだことがなかった彼氏さんだが、俺の話が終わると急に顔つきが変わり、今後どうするべきか考え、教えてくれたら。

「奈々ちゃんは1人で行動することがないようにね。葵くんやタケっちもよろしくね。何かあれば俺も駆けつけられるようにするから決して無茶な行動はしないように。」

「「分かりました。」」

「ヤクザが見え隠れするならば警察や弁護士にも相談しておいた方がいいな。それは僕の方でやっておくよ。」

「ありがとうございます。」

何年も解決できなかった問題に彼氏さんのおかげで💡が差した気がした。

「さーて、嫌な記憶のままうちのホテルから帰らせるわけにはいかないな。地下の温水プールで遊んで帰りな。水着は好きなのをショップから持って行けるようにしておくから!」

彼氏さんのご好意で最悪な日から最高な1日になった。