耕史と電車で別れてから会話が奈々と続かない。
耕史に俺とキスしたことがあるってバレたのがそんなに嫌だったのだろうか。この感じは絶対に奈々は起こっている。不機嫌が全身から溢れていた。子どもの頃に遊びでしたいたキスや挨拶での頬へのキスはどう言われても構わないが、バーベキューの日に河原でしたキスは流されたくなかった。

「なぁ、奈々。俺、挨拶以外のチューもしたんだけど忘れてない?」

「なんのことだっけ?知りませーん。」

こいつ、無かったことにする気なのか?バーベキューの日もずぶ濡れで戻ったあと、着替えるのに一瞬それぞれ離れたが、その後は奈々は俺を避けるようにしていた。

もう、この話はしたくないと表しているのか先程より少し早足になっていた。

「待てよ。」

奈々の少し前に出て歩みの速度を止める。

「何よ。どーせ私のことからかいたてふざけて口にキスしたんでしょ…。最低。」

 はっ?コイツ、俺がふざけて誰とでもキスする男だと思ってるのか?

「最低って何だよ・・・。てか、からかってもふざけてなんかもねぇよ。めちゃくちゃ奈々のことが可愛いと思ってキスしたくなったんだ。」

「私を見て可愛いなんて嘘よ。葵くんの周りにはいつも可愛い女子が集まるし、アメリカでもずっとブロンド美女に囲まれてたんでしょ?もし、私のこと可愛いって一瞬でも想ったとしても、そう思ったら誰とでもするってことね。」

「…なんだよ、昔はお前の方から『キスして!王子様!』って何度も言ってたくせに!誰でもいいのはお前の方じゃねーの?」

 いや、違う。今のは言ってはいけない一言だ。そう仕向けていたのは俺だし…。こんなこと言って喧嘩をしたいわけじゃない。耕史に対して俺とのキスを誤魔化すような態度が嫌だったわけで…。

「そっ…それは子供の時の話で!今それを持ち出すなんて卑怯よっ!」

「俺、子供の頃も今もふざけてお前にキスしたことなんてないぞ。昔からお前のこと好きだからキスしてる。」

「はぁっ?なにそれ…。す…好きって言っても幼なじみだから…、家族みたいな好きなんでしょ…。」

「いい加減に気づけよ。こっちは日本に帰ってきたらお前のそばに耕史が現れていて焦ってんだよ。それぐらいお前のこと子供の頃から想ってるんだよ。幼馴染として過ごした時間が俺にとっては大切で幸せな時間なんだ。この気持ちを冗談になんかしないでくれよ…。」

「…そんな。葵くんはいつもふざけてばかりで…。私に対して好きな女の子に接するようなこと一切してこなかったじゃない。どうせドッキリとか仕掛けようとしてるんじゃ…。」

他に誰か隠れて見てるんじゃないかと奈々は周りをキョロキョロと確認していたがそれを抱きしめることで俺に集中させた。

「…ドッキリなんかじゃないよ。」

「……。」

「俺が家族より先に日本に戻ってきたのだって、誰よりも奈々に早く会いたかったから。」

「……。」

「ずっと、ずっとお前のことだけが好きだよ。俺にとっては奈々は今でも最高のお姫様だ。」

「……。」

抱きしめていた腕の力を少し緩め、ゆっくりと口と口を触れさせる。

「今のも挨拶のキスなんかじゃないよ。普段、からかってばかりなのは奈々の笑顔が見たいから。奈々の笑顔は俺にとって宝物だからね。」

こないだのバーベキューに日みたいに突き飛ばされる前に抱きしめるのをやめ、奈々を開放した。

「俺、本気だから。でも、返事はすぐじゃなくていいよ。」

突然の出来事で自分の家の前で放心状態の奈々をおいて、隣の自宅の入口へと進む。

「あー…。そう言えば耕史は今は彼女とかいらないって言ってたぞ。彼氏が欲しいなら俺と付き合ったほうがいいんじゃない?」

十分自分の気持は伝えられたと思う。やるべきことはやった。しかし、その場で振られるのが怖くてそのまま自宅の鍵を開けて帰宅した。