「なぁー。耕史。」

「何だよ。」

「昼飯一緒に食おうぜ。」

調子良く後ろから声をかけてきたのは葵だった。

「お前、俺のことどぉ思ってんの?いみわかんねぇんだけど。」

奈々ちゃんのこととなると敵意剥き出しのくせに、その他の事には完全にフレンドリーだった。

「は?いきなりなんだよ。こっちこそ意味分かんねーって。お前に恋愛感情なんてないぞ。俺は女の子が好きだ(笑)」

「そーゆー意味じゃなくて…。だってお前こないだのバーベキューで『お前に奈々はやらねぇ。』って感じで牽制して来たじゃんか。なのに、昼メシ誘ってきておかしくね?このまま友達ってことでいいのか?ちょっと戸惑うんだけど…。」

「おかしくねーよ。俺たち普通に気が合うじゃん?ただ、耕史って奈々のこと女として好きだろ?だからやらないって意味だけど?」

突然直球で言われると言葉うまく出てこないものだ。

てか、俺にとって奈々ちゃんはただの癒やしキャラなだけで…。それよりコイツはなんで自分の気持ちをこうも素直にスラスラいえるんだ?恥ずかしいって気持ちは無いのか!?

「え?なに何?飯誘いに来たら磐田の恋バナ?誰々?」

「俺の幼馴染。」

「そーいや、ホームルームで紹介されたとき知り合いって言ってたな。」

「おい、勝手に話すんなよ。てか、恋バナじゃないし。」 

普段一緒に昼ごはんを食べてる田辺が弁当をもって机を寄せながら話しかけてきた。

「俺は奈々ちゃんのこと、そういう感じでは見てないし。葵の勘違いだよ。」

「ふーん……。」

 いぶしかしげな表情で俺を見るが、色んな面で兄貴に追いついてない今、恋愛なんてしてる時間はない。兄貴以上の大学に進学しなければ親父のあたりがまた強くなってしまう。奈々ちゃんはそんな俺に取ってのただの癒やしキャラだ。俺にとって奈々ちゃんは恋愛とは別のところにいるような気がする。

だけど…なんだ?葵が奈々ちゃんのことを好きだとわかるたびに何かモヤモヤとした気分になった。

「幼なじみ、奈々ちゃんって言うんだ。てか、磐田の恋バナと言えば、あの後輩ちゃんは?愛理ちゃんだっけ?」

「田辺……、余計なこと言うなよ…。」

「そういえば奈々の友達の真美ちゃんが耕史は女子にモテるって言ってたなぁ。」

葵は田辺にバーベキューに来ていた真美ちゃんから桜ヶ丘高にも俺のファンがいるって話をした。

「そーなんだよ。コイツのモテ方エグいぜ。俺も同じ弓道部何だけど、試合が近づくと差し入れがマジあり得ない量が集まる。」

田辺は弁当を大口で頬張りながら話をした。

「で?愛理ちゃんって?」

葵は興味津々で田辺から話を聞き出そうとする。

「1年の女子なんだけどめっちゃ可愛い女の子。部活のマネージャーしてくれてるんだけど耕史贔屓がひどいっつーかえげつないってゆーか…。」

「へー…。例えば?」

「もういいって。」

葵に揶揄われるのが嫌で会話を遮った。
松田からの好意はアイドルグループを応援するような好きであり、独占欲が強いというか…。俺は恋愛対象では無いと思ってる。

「えー、教えろよぉ。」

「部活中は当然磐田のことしか見てないからオレらが声かけてもガン無視だし、クラスの女子と話しただけで上履き捨てられたって話もあるし、磐田に告った女の子にはSNSで黒歴史拡散されたらしいって噂も…。」

「何それ。部活の話以外は全部『〜らしい』って信憑性ゼロじゃん(笑)」

田辺を止めたが葵が聞きたがり田辺はそのまま話を続けたが、どうやら葵は本気で聞いてはいなかった。

「でもさー、顔は可愛いんだよ〜。オレなら絶対に付き合っちゃうけどなぁー。」

「ただ付き纏って騒いでるだけだって。俺は虫除け(おとこよけ)に使われてるだけだよ。」

「いや、アレは本気だね。」

弁当の残りをかっこみながら田辺は言った。

「へー。そんなに可愛いんだ。耕史、付き合っちゃえば?」

「付き合わないよ。今は彼女とか要らない。」

俺の言葉を聞いた葵は

「へー。ライバルいなくなって助かったわー。」

と、棒読みで言った。