「あーーーーーっ!もぉ無理!水、一滴も入らない!!」

焼き場から少し離れた川べりに二人から逃げるように1人やって来た。いったい2人はどんなゲームをしていたのだろう。何か予め決めておいたワードを私から引き出す様な事でもしてたのだろうか?あのまま居たら死ぬまで食べさせられたに違いない。

「もぉーー!あの2人ってば今日が初対面でしょっ!2人だけで何を楽しんでたのやらっ!こっちはお腹が苦しくて地獄だってば!」

本来、こんな大自然の下で新鮮な焼きたてのお肉や野菜を食べられる事は『天国』と例えるべきなのだろうが、『天国』と思えたのは最初の食べ始めの一瞬だった。

「真美ちゃんとタケッちはニヤニヤしてこっちを見てるだけで助けてくれないし!」

ついついボヤキが声になって漏れてしまう。ぐぐーっと背伸びをし自然の雄大さを全身で味わう。
少し大きめの岩を見つけて椅子の代わりに座ろうとするが、お腹が膨れすぎて苦しくて無意識に『ヨイショ』と言葉が出てしまった。

「おばさんかよっ(笑)」

 この声は…。せっかく逃れて来たのにもう見つかってしまった。

振り向かずとも後ろで葵くんが私を馬鹿にして笑っている姿が目に浮かぶ。何も答えずにいると隣に座って来た。

「何か拗ねてない?」

機嫌を伺うように覗き込む。

「別に拗ねてない。」

「ぷっ…。ガッツリ拗ねてんじゃん。」

頬を軽くつねって引っ張って来たので、思い切り手を払ってやる。

「磐田くんは?どーせ葵くんが言い出しっぺで2人で私をターゲットに何かやってたんでしょ!?気が済んだ??」

「…別に俺たちなんもしてねぇけど?てか、耕史ならお前の友達と話してたぞ。あいつ、弓道すごいんだってなー。」

少し怒った口調で言ったのにサラリとかわされてしまった。

「真美ちゃんから聞いた話だと頭も良いんだって。葵くんと違って優しいし思いやりがあるし!実はね、私と磐田くんが知り合ったきっかけは……。」

「あー、それ知ってるからいい。椰々から聞いた。」

磐田くんが初めて声をかけてくれた時の話をしようとしたら、不機嫌な口調で遮られてしまった。

「えっ?お姉ちゃんから聞いたの?なら分かるでしょ?涙浮かべてるのに気付いて心配して声かけてくれるなんてなかなかできないよー!」

「俺だってお前が泣きそうになってたらそれくらい……。」

葵くんにしては珍しく下を向いてボソボソと呟いていた。

「えっ?何?聞こえないよー。」

「うるせー。いいんだよ、今のは聞こえてなくて。」

「はぁ?意味わかんない。」

素っ気なく返事をしてそっぽを向いてみたのだが葵くんの反応がなくて心配になり振り返る。その瞬間、彼の大きな手が顎を掴んで荒々しく唇を押し付けられる。何度も角度を変られるとリップ音が川音にに混ざり、突然の出来事が酸素と思考を奪うわれる。

 ……キス。……されてる!?

 ……なんで??また、揶揄われてる??




『バシャーーーーーーンっっっ!!!!』



 …やってしまった。

「っ冷てぇーーー。」

キスに驚いて葵くんを突き飛ばしてしまい見事に川に落ちてしまった。

「だって、葵くんがあんなことするから…。」

「俺は悪くないからな。」

ずぶ濡れ姿の葵くんに少し罪悪感を感じ、手を貸そうとした時だった。


『バシャーーーーーーンっっっ!!!!』


2度目の水飛沫と激しい音は私が川に落とされた音だった。

「ちょっと!何するのよっ!!」

「コレでお揃い(笑)俺を突き落としたこと許してやるよ。」

と言って大笑いしていた。