通勤通学ラッシュの中、あまり人が通らないベンチの隣にある自販機で「あたたか~い」列にあるココアのボタンを押した。自販機からココアの缶を取り出すと、彼は私の隣に座りハンカチを差し出してくれた。

「はい…。これ。」

「ありがとう…。」

彼が貸してくれたハンカチで溢れてしまった涙をふいた。

「ココアも…、良かったらコレのんで。温かいものを飲むときっと落ち着くから…。」

「ありがとうございます。」

男の子からココアを受けとり一口飲んだ。

「さっき乗っていた電車で何かあったの?痴漢でもされてた??」

「いいえ、何もないです。」

「じゃぁ、何でそんなに涙を浮かべてたの?今にも泣きそうな顔をされたら心配になる。」

「こんなに親切にしてもらって、申し訳ないのですが…。」

彼に涙を浮かべていた理由を話した。

すると、彼は一気に力が抜けた感じで両手で顔を覆いながら安心した様子を見せる。

「そんな理由で良かった…。」

…ん?

「実は俺たち、よくこの時間に同じ電車に乗るんだよ?…知ってた?」

彼と同じ制服はよく見かけるけれど、彼かどうかはわからない。
私は黙ったまま首を横に振る。

「…そっか。俺の存在に気づいていなかったか。」

彼が少し残念がって寂しそうな目とは逆に口元は微笑んでいた。

「じゃ、今日から俺のこと覚えてよ…。」

と言いながら、カバンの中らノートとペンを出し、メッセージアプリのIDを書くと、書いたところを破って私に渡してきた。

「俺、そろそろ行かないと遅刻しちゃうからもう行くよ。友達になってもいいと思ったら、メッセージちょうだい。」