*1日目*




目の前には大きな和風屋敷。



「ようこそ。

僕の屋敷へ」


迎えたのは茶色の髪に赤い目をした青年だった。


私はこの人に食べられるのだろうか。



この国は10年に一回、生贄を守護神に差し出す習慣がある。



生贄を差し出すと守護神はこの国を災いから守ってくれるらしい。



その生贄にも決まりがあって、18歳の女でなければならない。



それで選ばれたのが私だ。


私には家族もいなければ友達もいない。


家もなければ、働くところもない。




なんとか食べ物とは言えない物を見つけ、服とはいえない布を纏い、いじらしく生きていた。




そんな人生だったからか、生贄だという事を嫌だとは思わない。



今、私が身に纏っているのは見た目はよく、触り心地の良い着物だ。



服とは言えなくて、触り心地は悪い布とは違う。


生贄になると決まってからここに来るまでの1週間、私は政府に保護されていた。



綺麗な屋敷に、綺麗な服。


見た目はよく、味も良い食事


したことのなかった湯浴み。




今まで経過したことのない贅沢をさせてもらった。


保護されてからは空腹に飢える事はなく、


苦しい事もなく、


痛い事もなかった。


憧れていた事を1つを除いてをさせてもらった。



満足だ。


「あの、貴方がこの国の守護神様ですか?」



「うん、そうだよ。

さぁ、詳しい話は中でしよう。」



にこりと微笑み、守護神様は私を屋敷の中へと案内した。


すると綺麗な絵が描かれた襖がある部屋へと案内された。


「どうぞ。」


美しい柄の座布団に座ると、


守護神様は机を挟んで私の前へと座った。



「そういえば、名乗ってなかったね。

僕はうい。少しの間よろしくね。

君の名前は?」




「ええと、私はりこと申します。

どうぞよろしくお願いします。」


無難に挨拶した。



すると守護神様は目を目を見開いてこちらを見ている。



「ねぇ、りこは僕のこと怖くないの?

僕に食べられると分かっているのに。」


「はい。怖くありません。

もう、満足してますから。」



「ふーん。

未練はないの?
いつも一つだけ叶えてあげてるけど。」


未練か。何かあるかな。



憧れてる事は1つを除いて叶えてもらったし…


あ、


「『好き』という感情を知りたい。

その感情を知ってみたいです。」



「好きが知りたいか…

いいよ、僕が教えてあげる。


いつも生贄を食べるのはここに来てから5日後。それまでじっくり教えてあげるね。」



にこりと笑った。



私は好きを知らない。


たまにタンポポを見つけたとき、それを可愛いと思った。



でもそれは、好きとは違う感情。


前にこっそり、若い女の子たちが話しているのを聞いた。



『〜さんが好き。』とかそんな話。



いいなって思った。

私もそんな感情知ってみたいなって。