星と月と恋の話

「もぐ…もぐ」

「どう?美味しい?」

「ごくん…。…はい、久し振りに食べました。鈴カステラ…」

それは良かった。

「じゃあどんどん食べて。もう閉店間際だからって、たくさん入れてもらったのよ」

私はテーブルの上に、鈴カステラの袋を広げた。

幸い、もうやるべきことは終わってるんだし。

結月君が終わらせてくれたからね。

こうして鈴カステラ食べてたって、誰にも文句は言われない。

「いや、ですけど…」

まだ断ろうとしてる。

意固地。

「これ全部私に食べさせて、私を太らせるつもり?」

「え」

「そうは行かないからね。ちゃんと結月君も手伝って、はい」

私は、なおも強行突破とばかりに。

結月君の口に鈴カステラを押し込んだ。

自分から食べないなら、こうして無理矢理食べてもらうから。

「むぐ、た、食べる…自分で食べますから」

「食べる?自分で食べるの?」

「食べます…だから、無理矢理押し込まないでください」

「うん、宜しい」

じゃ、自分で食べてね。

少なくとも半分は結月君のノルマだから。

ノルマ達成出来なかったら、また口に押し込む。

結月君が押しに弱いタイプで良かった。

今だけはそう思う。

「…あの、えぇと…ありがとうございます、星ちゃんさん…」

「何それ。お礼を言うべきはこっちでしょ?」

ほぼ全部、結月君に仕事任せちゃってるんだから。

鈴カステラ一袋くらいじゃ、全然お礼にはならないわ。

「…」

一つ二つと、鈴カステラを摘んで。

「…今日は、星ちゃんさんと一緒の係で良かったです」

と、結月君は呟いた。

うん?

「どうしたの?いきなり…」

「いえ…。ふとそう思っただけです」

何それ。

「そんなに、鈴カステラ美味しかった?」

「いや、鈴カステラは抜きにして…」

「…?」

「…何でもないです」

どうしたのよ。

何でもないことないでしょ。

そっか。私と一緒で良かった…か。

私なんて、ちっとも戦力になってないはずなんだけどなぁ。

でも、そう思ってくれて良かった。

ちょっとだけ罪悪感が薄れた。

「私も、結月君と一緒で良かったと思ってるよ」

今だけは本心からそう思えた。

あんなに嫌だったはずなのにね。不思議だ。