星と月と恋の話

結局、結月君はテコでも動かないとばかりに、空き教室を出ていくことはなかったので。 

気まずいまま、昼食が終わった。

折角のお好み焼きとラズベリージュースだったのに、全然味を感じなかったよ。

そして、午後からも午前と同じ作業の繰り返し。

本番前になったら、お客さんにアンケート用紙を配り。

本番が終わったら、そのアンケート用紙を回収ボックスに集める。

集め終わったら、それを持って空き教室に移動(今度は間違えなかったよ)。

あとはひたすら、アンケート結果を集計するだけ。

物静かな結月君と、時折一言二言、言葉を交わしながら。

ゆっくりのんびりと時間が過ぎていく。

言うまい言うまいと思っていたけど。

不意に、口をついて出ていた。

「…嫌じゃない?毎年…こんな裏方仕事するの」

と、聞いてから。

私はしまった、不味いことを聞いたと思った。

そんなの愚問というものだろう。

「あ、いや、ごめ…」

謝ろうと思ったけど、結月君は気を悪くした様子はなく。

2、3秒ほど、ピタリと静止して。

そして、何事もなかったように作業を続けた。

「別に何とも思いませんよ。僕はむしろ、踊ったり歌ったり、客を呼び込んだり…そういう人前に立つ仕事の方が苦手ですから」

あ、うん…。

それは…そうなのかもしれないけど。

「星ちゃんさんが思ってるほど、僕はアンケート係を苦痛だとは思ってませんから」

「…」

…そうなの?本当に?

私が過剰に反応し過ぎ…?

「表舞台に立って、華やかな仕事をするのも楽しいのかもしれませんけど。僕は生来、縁の下の力持ちタイプなので」

縁の下の力持ち…か。

結月君は、本当にそれだよね。

知らなかった。

私は、ほぼ毎年…結月君が言うところの、「表舞台で華やかな仕事」をするタイプで。

文化祭と言えばこれだ!とばかりに、楽しんできて。

今年初めて裏方仕事を任されて、つまんないつまんないと思ってたけど。

いたんだよね、毎年。

こうして、私がつまらないと思ってる裏方仕事を黙々とこなしてくれている人が。

そういう人がいるから、私はこれまで、楽しく華やかな役ばかりやってこれたのだ。

…そういう人達がいることを、私は知りもしなかった。

知ろうともしなかった。

自分の無知が恥ずかしい。

「…結月君は、偉いね」

「まさか。僕は、自分の役割を果たしてるだけですよ」

それが偉いんだよ。

「今年は私も…縁の下の力持ち、になれたのかな?」

結月君に比べたら、私の力なんて、足を引っ張ってるくらいが関の山だろうに。

「えぇ、ちゃんとなれてますよ」

結月君は、笑顔でそう言ってくれるから。

君は本当に…優しい人だよ。