星と月と恋の話

かくなる上は。

「師匠ってあれ…。ちょっと聞きたいんですけど」

「何だ?」

「真面目に答えてくださいね。夫婦喧嘩したときって、いつもどうやって解決してます?」

「そ…!そう聞かれても…」

僕はずっと片親育ちで、両親が夫婦喧嘩をする光景を見たことがない。

正確には、僕と唯華さんは夫婦ではないが。

交際関係にある男女が、一般的にどのようにして仲直りをするのか聞きたい。

どうすれば良いんですか。

「こっちは真剣なんです、至って真剣なんですよ。良い歳してもじもじしてないで、ちゃんと教えてください」

「え、いや。そ、そう言われても…。…何も思いつかない」

はい?

「そもそもうちは、お互い離れて暮らしてるから…喧嘩をする機会がない」

「…成程」

賢いですね、お宅。

喧嘩したときどうするかじゃなくて、そもそも喧嘩をしないという選択を取るとは。

確かに、それは正しいのかもしれない。

交通事故に遭ったらどうするか、について考えるよりも。

そんな時間があったら、そもそも交通事故に遭わない為にどうするか、について考えた方が余程建設的というものだ。

しかしどんなに対策していても、細心の注意を払っていたとしても。

事故というものは、どうしても起きてしまうもので。

そんなとき、どうしたら良いのか知りたい。

「別居してるとはいえ…たまには喧嘩くらいしてくださいよ」

「そ、そう言われても…」

「それだけ長く生きてて…夫婦喧嘩もしたことがないとは…。…はぁ…」

「…何故か、物凄く理不尽な理由で怒られてる気がする…」

それは気のせいです。

「別に難しく考えなくても…。悪いことをしてしまったと思ってるなら、謝れば良いんじゃないか?」

ド正論。

悪いことをしたなら謝りましょう。幼稚園児でも分かる大原則。

その通り過ぎて、言い返す言葉が見つからない。

「謝って…許してくれるものなんでしょうか」

「…世の中の大抵のことは、謝れば許されると思うが」

「謝っても許されないことが、世の中にはあるんですよ」

「…そんなに悪いことをしたのか?」

「…」

したんですよ。多分。

八つ当たりという、この上なく自分勝手な理由で唯華さんを傷つけてしまった。

最低ですよ。