星と月と恋の話

「いつ来ても、何かしら季節の花が咲いてて綺麗ですし…」

「…」

「いつまで見てても飽きないので。休みの日とか…。何もやることがないときは、ここで時間を潰すんです」
 
「…」

「そこにある…ベンチに座ったりして。何時間でも眺めてられますから」

「…へぇー…」

それは…また、風流な趣味だね。

結月君の趣味が一つ、明らかになったのは良いことだけど。

ここで何時間も潰せるとか、ないわ。

私には有り得ない感覚だわ。

数十分でもキツい。

すぐ飽きない?こんなの…。

やっぱり、結月君の趣味は変わってる。

中途半端に和柄な服着てるしさぁ…。趣味までおじいちゃんなんだから。

結月君、人生何回目?

絶対一回は人生経験済みでしょ。

あー。海咲、真菜、どっちでも良いから助けて。

都合良く電話かけてきたりしてくれないかな。

その電話を口実に、「ごめん今日のデートここまでにして」と言って途中離脱出来るのに。

なんて、ズルいことを考えてしまっていた。

すると。

「見えてきましたよ」

「え、あ、何か言った?」

「コスモス畑、見えてきましたよ」

結月君が、向こうの花壇を指差した。

そこには。

「うわ…」

思わず目を見張るほど、色鮮やかな大輪のコスモスが咲いていた。

これには、さすがの私もびっくり。

めちゃくちゃ綺麗じゃん。

花に関心なんてなかったけど、これだけ華やかだと目に入らずにはいられない。

「綺麗でしょう?」

「うん…。凄い綺麗だね」

これは本心だった。認めざるを得ない。

成程、これは見に来る価値がある。

あ、そうだ。

「写真撮ろう」

私はスマートフォンを取り出して、コスモス畑を写真に収めた。

Twittersにアップしようかな。折角だし。

そして同時に、海咲と真菜にも、私が今こんなところに来ていることを伝えたい。

「これを見せたかったんです、星ちゃんさんに」

結月君は、コスモス畑を見ながら言った。

そ、そうだったんだ…。

それでわざわざ、自然公園に誘ったのか…。

「毎年凄く綺麗ですから…。誰かとこの景色を共有したくて」

「…そ、そっか…」

友達…いないもんね、結月君。

いつも、一人でこの景色を見てたんだろう。

そもそも友達がいたとしても、なかなか「コスモス見に行こう」って誘って、ついてきてくれる人はいないよね…。

花見なんて、おじいちゃんおばあちゃんの宴会じゃないんだから。

…まぁ、でも。

たまーに、こうして見る分には…そんなに悪くないのかもしれない。