星と月と恋の話

…何が嬉しくて、こんなことに。

私は結月君と並んで遊歩道を歩いていた。

遊歩道に沿って、花壇がずーっと続いていて。

色とりどりの季節の花が美しく咲き乱れていた。

そりゃあまぁ、綺麗な眺めではあるけど…。

…たかが花じゃん。

学校の花壇にも咲いてるじゃん。毎日見てるよ。

わざわざ貴重なお休みの日を割いて、見に来るようなものか?これ。

激しい時間の浪費…。

海咲や真菜に、今すぐ泣きつきたい。

スマホを取り出して、二人に連絡したい。

「自然公園なんて来てるんだよ今〜!助けてー!」って言いたい。

二人共きっと同情して、何かしら理由をつけて、私を連れ帰ってくれるはずだ。

それが友情ってものでしょ。

言っておくけど、歩きながら結月君の手を繋ぐなんて、絶対そんなことはしないから。

自然公園なんて、つまんないところに連れてこられた恨みを差し引いても。

例え遊園地デートだとしたって、手なんか繋いであげない。

そういうことは、全部本命に取っておくから。

結月君の方から手を繋ごうとしてきたらどうしよう、とちょっと心配だったけど。

そこはさすが、超草食系男子の結月君。

自分から手を伸ばそうなんて、そんな度胸は全くないようだった。

安心したよ。そこだけは。

手を繋ぐなんて求められたら、鳥肌立つところだった。

結月君が奥手で、そこだけは助かったな。

それどころか、結月君はそんな色恋沙汰には、ちっとも関心がないとばかりに。

じっと花壇の方を見つめていた。

…こんな景色見て、何が楽しいんだろう?

一瞬で飽きそうなんだけど。

「…綺麗ですね」

と、結月君はポツリと言った。

う、うん。まぁそりゃ、綺麗なのは認めるけど。

「うん…綺麗だね…」

「春になると、もっと綺麗なんですよ。桜も咲いて」

「そうなんだ…」

正直、どうでも良い情報だった。

確かに、桜の木がずっと並んでるね。

お花見シーズンになったら、きっとこの公園は大盛況なんだろう。

でも、私は元々、花より団子派だし。

それに、ほら。

桜の咲く頃には、三ヶ月の期限も終わってる。

その頃には、結月君とデートに来ることなんてなくなってるよ。

永遠にね。

今から、その日が待ち遠しい。

…で、それより。

春になったらもっと綺麗、っていう情報を持ってるってことは。

「結月君は…よく来るの?ここ…」

せめて少しでも話題を、と思って、私はそう尋ねた。

「えぇ。よく来ますよ」

と、結月君は答えた。

…だよね。

そうでもなきゃ、初デートにこんなところに誘ったりしないよ。