星と月と恋の話

その、翌日の昼休み。

「はぁ…。お腹空いた…」

私は気を滅入らせながら、千切りキャベツのタッパーを机の上に置いた。

私、うさぎじゃないし、青虫でもないから。

キャベツでは喜ばないのよ。ごめんなさいね、キャベツ好きな人。

せめて、ドレッシングとかかけられたらなぁ。

ドレッシングパワーで、もりもり食べられるんだけど。

元々そんなに野菜が好きな訳でもないのに、毎日山盛りの千切りキャベツばっかり食べてたら。

本当に、草食動物になった気分だわ。

なんかこう…目先を変えなきゃやってられないわよね。

明日は、茹でブロッコリーでも持ってこようかしら?

ブロッコリーも…そんなに好きな訳じゃないんだけど…。

お昼が楽しみじゃないと、つまんないわよね。

また前みたいに、たまには学食でラーメンとか食べたいわ。

ダイエット中の身には、儚い望みね。

「はー…」

特大の溜め息をつきながら、今日も山盛り千切りキャベツのタッパーを開けた、そのとき。

「…あの、星さん」

「今日もキャベツ…。昨日もキャベツ…。そして明日もキャベツ…」

「あの、キャベツは別に良いんですけど」

「来世はきっと青虫…」

「…青虫も別に良いんですけど、ちょっと聞いてもらっても良いですか」

…ん?

ようやく私は、自分が呼ばれていることに気がついた。

「どうしたの…?」

「いえ、その…。星さんがダイエットを頑張ってるようなので…」

えぇ。凄く頑張ってるわよ。

「僕も何か協力しようと思って…作ってきたんです。これ…おからハンバーグなんですけど」

と言って、結月君は自前のタッパーを取り出した。

「どうぞ、食べてみてください…。おからと豆腐を混ぜてるので、凄くヘルシーですよ」

…ごくっ。

元々料理上手な、結月君お手製のハンバーグ。

しかも、連日味気ない、そして変化の少ないメニューばかり口にしている私にとっては、抗い難い魔力を持っていた。

そしてこれ、普通のハンバーグよりヘルシーなんでしょ?

本来、私のダイエット計画には入っていないメニューだけど。

これくらいなら、食べても良いんじゃないか…と思わせてくる。

思わず手を伸ばしたくなる…けども。

…そこで魔力に負けてしまうから、私は養豚場の豚になってしまうんだ。

危ない危ない。

「作ってきてくれたところわるいけど、私は食べないわ」

「えっ」

「キャベツ以外食べないわ…。私には固い決意があるのよ」

揺るぎない、青虫の精神。

「す、少しくらい良いじゃないですか。おからと豆腐ですから、ほぼ。8割」

「それでも駄目なのよ。油を使ってるものは食べないの」

「油って…。フライパンにちょっと引いただけですよ」

そういうものの積み重ねが、私のお腹のお肉に繋がってるのよ。

「大体結月君、君はインストラクターでしょ」

「え?いや…はい。いえ…押し付けられただけですけど」

「だったら、食べることを促すんじゃなくて、止めなきゃ」

ちょっとくらい良いじゃない、って勧めるなら、インストラクター失格じゃないの。

それはインストラクターじゃなく、悪魔の囁きよ。

「いや…。食事メニューを一緒に考えるのも、インストラクターの仕事なのでは…?」

と、結月君は呟いていたけど。

「悪いわね。今の私には必要ないわ」

「…そうですか」

そのおからハンバーグは目に悪いから、早いところ結月君が食べちゃって頂戴。

私は今日も、キャベツに生きるわ。