捨てるのも勿体ないから、一応ラッピングして持ってきてはみたものの。

結月君の完璧な、素晴らしい手作りチョコレートを前にして。

私の作ったボソボソぺちゃんこフォンダンショコラもどきなんて、とても結月君に見せることは出来なかった。

だから、渡す前に隠蔽しようと思ったのに…。

結月君の拷問によって、白日の下に晒されてしまった。

「思ってたのと違うのよ…。こんなはずではなかったのよ…」

「そうですか?…ちょっと試食してみますね」

「え」

すぐその場で、ラッピングのリボンをほどき。

ボソボソフォンダンショコラを、何の躊躇いもなく口に入れた。

えぇぇ、ちょ、勇気あり過ぎでしょ。

もうちょっと躊躇おうよ。

「もぐもぐ…。…成程。苦労が伺える味ですね」

オブラートに包んでくれてありがとう。

正直に「不味い」って言ってくれて良いのよ。

「焦げてるのが少し気になりますけど、それ以外はそんなに悪くないと思いますよ」

「…正直に言って良いのよ?」

「正直に言ってますよ」

そう。

「でも、美味しいか不味いかの二択で言うと?」

「…正直、美味しくはないですね」

ほらぁぁぁ!

最初からそう言ってよ!変に期待にして涙目に、

「でも、初めてにしては悪くないと思いますよ」

「…その慰めが心に刺さるわ…」

「いや、本当に。最初から上手な人なんて何処にもいませんよ」

…慰め方の定番ね。

「僕だって、今でこそそこそこ料理出来るようになりましたけど…」

あなたはそこそこじゃないわ。

ガッツリよ。

「最初の頃は、焼き魚でさえ炭化させてましたから」

え。

「…そうなの?」

「そうですよ。文字通り僕の黒歴史です」

結月君にそんな意外な過去が。

最初から上手だったんだと思ってたわ。君は。

「結月君は天才型なんだと思ってた」

「とんでもない。僕はどちらかと言うと努力型です」

そうなんだ。

まぁ、君は試験前に詰め込むタイプではなさそうだもんね。

普段からコツコツ勉強してそう。

「今年この出来なら、きっと来年にはもっと上手に出来ますよ」

「…そうかな」

「えぇ。だから気にすることないですよ。…まぁ、火加減には気をつけた方が良いと思いますが」

上げておいて落としてくるの、さすがね。

分かったわよ。次は…火加減に気をつけるわ。

「バレンタインチョコ、作ってくれてありがとうございます。凄く嬉しいです」

「…そ、そっか…」

相変わらず、女子力では全く結月君に勝てない私だけど。

でも、やっぱり手作りに挑戦してみて良かった。

結月君のお陰で、今はそう思うことが出来た。