星と月と恋の話

と、こんな経緯で。

その日は頑張って、投げられないよう抵抗してみた。

何だか途中から、お互い時間も忘れて稽古に熱中していたようで。

気がついたら、外は暗くなっていた。

ヤバい。

「…なんか、外暗くなってません?」

「…なってるな」

という、何とも気の抜けた会話の後。

急いで稽古を切り上げて、全速力で帰宅した。

すると。







「お帰り、遅かったわね」

「あ、ごめん…」

家に帰ると、母が起きて、夕飯の支度の為に台所に立っていた。

母に、台所に立たせてしまうとは。

台所担当として、誠に不甲斐ない。

「つい熱中して…。ごめんなさい、代わるから、休んでて」

途中からでも、夕飯担当を代わろうとした。

…しかし。

「良いのよ、母さんがやるわ」

「いや、だけど」

「大丈夫。今日は調子が良いから。このくらいやらせて」

「…」

…やっぱり、不甲斐ない。

僕が帰ってくるのが遅かったばかりに…。

「…じゃあ、せめて洗濯物を畳んでくる…」

「良いから、まずはシャワーを浴びてきたら?疲れてるでしょう?」

「いや、大丈夫…」

と、言ってみたものの。

久し振りにガッツリと稽古に励んだせいか。

家に帰ってくると、どっと疲れが襲ってきた。

やっぱり不甲斐ない。

…仕方ない。

「…お言葉に甘えて…ちょっとシャワー浴びてくる」

「はいはい、行ってらっしゃい」

その代わり、食後の皿洗いは絶対やる。絶対やろう。

それで許して欲しい。

「…それにしても、結月」

「はい?」

「最近、何だか楽しそうね」

…はい?

「…覚えはないけど、そんな顔してる?」

「一時期、かなり沈んでるようだったから、心配してたのよ」

それはもしかして…星さんと別れて、意地張ってたあの一ヶ月のこと?

正直、あの時期のことは、もう黒歴史のようなものだから。

出来れば、皆さんに忘れて欲しい。

「最近は元気そうだから良かった。…やっぱり、星野さんのお陰?」

ま…。

「まさか…。そんなんじゃないよ…」

「そう?」

その笑顔は何?

勿論と言うか、当然と言うか。

星さんと付き合ってることは、母には内緒だ。

とてもじゃないけど、母に話す気にはなれない。

僕に彼女が出来ましたなんて、口が裂けても言えない。

…それどころじゃない。

師匠には話したけど、僕は極力、このことを誰からも隠しておきたいのだ。

何で師匠は良いのかと言うと、あの人は決して他言しないと知っているから。

星さんが、僕との関係をどう思っているかは知らないが。

周囲の人間が、僕達の関係を知ればどう思うか。

それは、考えるまでもなく明白だからだ。