星と月と恋の話

…しかし。

レースが始まって、僅か10秒足らずで。

「あれ?あれ?あれ?」

隣の席の結月君が、あわあわした声を出していた。

何よ。どうしたの?

レース中に、脇見運転はしたくないけど…。

結月君の様子を確かめる為に、ちらりと横を見ると。

結月君は、まだスタート地点から動いていなかった。

ちょっと、何してるの。

もうレースは始まってるのよ。敵にハンデでも与えてるつもり?

「あ、え、えぇと、えっと、えっと」

あわあわとハンドルを回し、アクセルを強く踏み込む結月君。

すると結月君のカートは、くるりと後ろを向き。

そのまま爆走。

こんな鮮やかな逆走、初めて見るわ。

「逆走です」の警告が、ビービー鳴ってる。

しかし、結月君はハンドルを右へ左へと、闇雲に回すばかりで。

全然、正面を向けていない。

むしろ、どんどん逆走していってる。

そうこうしている間に、CPUが結月君を追い越していく。

言っておくけどこれ、周回遅れだから。

スタート画面から1メートルも進まず…いや、それどころか。

思いっきり後退してるわ。

前に進んだ距離より、後ろに進んだ距離の方が長いって。

君、全然レースに参加出来てないよ。

「これおかしいですよ、全然進まない」

「…」

おかしいのは、君のハンドリングでしょ。

手助けしてあげたいけど、私も運転中だから。どうにもならない。

…結果。

結月君はそのまま、スターと地点付近で、後ろ向き走行を繰り返すばかりで、ちっとも前に進まず。

ノロノロ運転のCPUに追い越され、レース終了。

全くレースに参加出来ていなかった。

あ、ちなみに私は一位だから。

「あのね結月君、ハンドルを闇雲に回さなくて良いの。まずは、真っ直ぐ走ることから始めましょう?」

「言う事聞かないんですよ、この車」

車のせいじゃないわ。

そんなきょとんとした顔しても駄目。

第2レースがあるから、そっちで挽回しましょう。