星と月と恋の話

「どうぞ、タヌキです」

「あ、ありがとう…。…猫だけど…」

久露花さんが差し出してくれたぬいぐるみを、私はおずおずと受け取った。

ちょっと、さっきの衝撃が未だに消えないんだけど…。

い、今のって…何だったの?

とにかく、今見せられたものが、久露花さんの神業だったことは確かだ。

私と結月君とで、あんなに苦労してたのに。

いや、結月君はまるで戦力になってなかったけど…。

あんなに簡単に…あっという間に取ってしまうなんて…。

って言うかこれ、もらっちゃって良いの?

取ったのは久露花さんなんだから、これは久露花さんがもらうべきでは?

「あ、あの、久露花さん」

「畏まりました、あの白いタヌキもご所望なのですね?」

はい?

白いタヌキって…色違いの白猫ちゃんのこと?

「折角ですから、白ダヌキも入手しましょう。再び角度を計算して…」

「え、ちょ、ちが、」

「戦闘モードに移行します」

えぇぇぇぇ。

ちょっと、もう意味が分からないんだけど。

しかも。

「う、嘘でしょ?」

「…凄い…!」

久露花さんは、まるで自分の手のように、アームを軽やかに動かし。

白ダヌキ、じゃなくて白猫ちゃんを。

一体をアームで掴み、手前にいたもう一体をアームで押し込むようにして。

なんと、同時に二体をゲットした。

100円で二体。

正確には黒猫ちゃんも合わせて、200円で三体ゲットしたことになる。

千円も費やして右往左往してた私って、一体。

「どうぞ」

獲得したぬいぐるみを、久露花さんは私に握らせた。

びっくりして、声が出ないんだけど。

いや、ちょっと待って。放心してる場合じゃない。

「あ、あの、待って久露花さん」

「?まだご所望の品が?良いですよ、何でも獲得してみせましょう。『新世界アンドロイド』の名に懸けて」

ご自慢の中二病発言のはずなのに、何故か物凄く頼もしく聞こえるのは、私だけか。

「そうじゃなくて、このぬいぐるみ…。久露花さんが取ったんだから、久露花さんが持って帰ってよ。私がもらう訳にはいかないよ」

私は、千円費やしてもゲット出来なかった負け犬なんだから。

これは、獲得した張本人の久露花さんが持っているべきだ。

しかし、久露花さんは。

「いえ、結構です。エゾタヌキのぬいぐるみは、私の趣味ではありませんから」

「いやあの…これ猫…」

「欲しい方が持っているべきです。どうぞ、遠慮なく」

そ、そう言われても…。やっぱり悪いよ。

すると。

「良いんだよ、もらってあげて」

久露花さんと一緒にいた、車椅子のお供がそう言った。

「こっちはもう…ほら、既に散々乱獲してるから…」

と、彼は景品の山が入った袋を指差した。

や、やっぱりそれ、全部獲得した景品なんだ。

「瑠璃華さんも、好意で取ってあげたんだろうから。遠慮なくもらってあげて」

…そこまで言うなら…。

「…あ、ありがとう…」

私はぬいぐるみを抱き締めて、おずおずとお礼を言った。

「いえ、この程度、何でもありません。…では行きましょうか、奏(かなで)さん。次の獲物は何にしましょう?」

「そろそろ終わりにしようよ…。さっきから店員さんが、景品全部瑠璃華さんに持って行かれるんじゃないかって、心配そうな顔でこっちを見て…」

「見てください奏さん。あそこにヒグマのぬいぐるみがいます。獰猛ですね。ちょっと捕獲してみましょう」

「…テディベアだよ…」

…などという、会話をしながら。

二人は、別のクレーンゲームの方に消えていった。