星と月と恋の話

「己の力量を正しく弁え、時には潔く戦略的撤退を選択する。それは人間の美徳だと私は思います」

と、彼女は言った。

「しかし世の中には、『どうしても譲れないもの』というものがあります。久露花局長にとって、チョコレートがそれに当たりますね。この景品がもしチョコレートだったら、久露花局長はきっと、何千円、いえ、何万円費やしても後悔はしないでしょう」

…えーと。

…何の話?

そ、それよりこの人…。

「本当に欲しいものなら、いくら費やしても損をしたとは思わないものです。そしてあなたは本当に、このタヌキのぬいぐるみを欲しいと思っているのですか?」

「…あのね、瑠璃華(るりか)さん。これ、タヌキじゃなくて猫…」

彼女の後ろで、車椅子に乗っているお友達がポツリと呟いていた。

けど、そんなことは全く聞こえていない様子で。

「本当に欲しいのですか?このタヌキ」

「え、えっと…。タヌキではないけど…うん、欲しいよ」

と、私はしどろもどろになりながら答えた。

欲しくなかったら、千円も費やしてないよ。

すると。

「分かりました。個人的には、タヌキのぬいぐるみが欲しいとは微塵も思いませんが…。あなたの心意気は高く買います。私とて、このぬいぐるみがもしコモドドラゴンだったなら、絶対入手したいと思うはずですから」

成程。

私だったら、絶対要らないな。

コモドドラゴンって何?

ドラゴンってことは…空想の生き物?

いや、そんなことより…。

「ではここは、あなたに代わり、僭越ながらこの『新世界アンドロイド』久露花瑠璃華が、代打ちをさせて頂きます」

…と。

謎の少女、久露花さんは言った。

今、名乗ったもんね?

久露花さんだって。

確か、Aクラスに転入してきた不思議ちゃん…。

噂には聞いていた。

自分のことをアンドロイドと呼んでいる、かなり痛い子だと聞いていたけど…。

あれって、本当だったんだ。

ついでに、車椅子の彼と付き合ってるっていうのも本当だったんだ。

この二人も、ゲームセンターにデートしに来たんだ…。

…って、感心してる場合じゃないって。