星と月と恋の話

「むむむ…」

「ほらぁ…。もう八回目ですよ」

金額にしたら、800円。

普段の私だったら、さすがにもう諦めてる頃だ。

下手くそだという自覚はあったけど、本当に下手くそね、私。

800円も費やしたのに。

今、私の狙いのぬいぐるみは、獲得口に僅かに近づき、行き倒れたかのように突っ伏していた。

8回トライして、この状態になった。

確実に獲得口に近づいてはいるんだけど。

しかし、その距離がまだまだ遠い。

このままのペースだと、更にあともう8回はやらなきゃ取れなさそう。

「諦めましょうよ、800円ですよ?800円。2日分の夕飯のメインが買えますよ?」

夕飯で例えないでよ。

冷めたことを言うんじゃないの。

「分かってるわよ。でも、もうちょっと…ここまで来たんだから」

「あぁ、ほらコンコルド効果…」

何よ、コンコルド効果って。

ともかく。

折角800円も費やして、ここまで動かしたんだから…。

何としてもゲットしないと、これまで費やした百円玉が無駄になっちゃうじゃない。

それは勿体ないわ。

「よし、じゃあ9回目を…」

「無理ですよ、何回やっても。星さんの不器用な手で、クレーンゲームなんて…。良いように搾取されるだけですよ」

…ムッ。

「見てください、あのぬいぐるみ…。…突っ伏してますけど。絶対星さんのこと嘲笑ってますよ。『まだ取れないのかお前(笑)』みたいに…」

い…。

…言わせておけば。

「…そんなこと言うなら、手先の器用な結月君は、さぞや上手なんでしょうね?」

「え?」

私は、くるりと結月君を振り向いた。

さっきから、横から口を挟むばかりで。

そんなに偉そうに言うのなら、自分はさぞや上手なんでしょうね?

「ちょっと、結月君もやってみてよ」

「は、はい…!?何で僕が?」

「横から口を挟むからよ。ちょっと、お手本を見せてもらいましょうか」

「そ、そんな。僕は無理ですよ…!」

「いーえ。やってもらうわよ」

私は、九枚目の百円玉を投入口に入れた。

「ほら、お金は私が出すから、ちょっとやってみてよ。やり方は分かるでしょ?横で見てたんだし」

「い、いや、でも、僕はこれ初めて…」

「あー、きっと結月君はとっても上手いんだろうなー。お手本を見せてくれるに違いないわー」

「棒読みじゃないですか!」

えぇ、棒読みよ。

良いから、ちょっとやってみて。

もし取れなくても、文句は言わな…。…いや、言うわ。

存分に言わせてもらうから、ちょっと一回やってみて。

「う、うぅ…。えぇっと…まずはボタンを押して…」

カチッと横ボタンを押して、アームを動かす結月君。

そうそう、その調子。

「こ、このくらいかな…?」

ううん、明らかに行き過ぎだと思うわ。

「それから奥に…このボタンを押し、あれ?」

上方向のボタンを押した、かと思ったら。

何故か、結月君は一瞬で手を離してしまった。

慌てて押し直すも、一度手を離してしまったら、再度の操作は受け付けません。

ぬいぐるみから遥か遠く離れた位置に降りたアームが、虚しく空気を掴む。

…何の成果も残せず、初期位置に戻るアーム。

「…」

「…」

「…」

…うん。

「…偉そうに言っといて、君も下手じゃんっ!!」

「いたっ!」

私は、結月君の後頭部を引っ叩いた。