星と月と恋の話

まずね、もう、びっくりするくらい人が多い。

「ど、どうなってるの?この人混みは…」

「水曜日はいつもこうなんです」

近所のおばさん主婦達が、買い物カートを押しながらひしめき合っている。

何だか、目がギラついてるようにも見えるんだけど…。

私の気のせい…よね?

そんなまさか。たかだかスーパーで大袈裟な…。

所詮、食料品を買いに来るだけの場所じゃない。

「…じゃあ行きましょうか。はい、買い物かご…」

「あれ?カートは押さないの?」

「機敏な動きを強いられるときは、カートは持たない方が良いんで…。交通事故のもとです」

この子、一体何を言ってるのかしら。

機敏な動きって?交通事故って?

何をまた大袈裟な…。

買い物かごって重いから、私はカートをゴロゴロ押したいんだけどなぁ。

まぁでも、いっか。

どうせ、私はお弁当の材料を買うだけだから、そんなにたくさん買わないし…。

明日は何作ろっかな。

「ねぇ結月君、初心者でも簡単に作れるお弁当のおかずって何かな?」

「え?そうですね…。焼肉用の肉を買って、焼肉のタレをかけて焼くのはどうですか?」
 
おぉ、何それ簡単そう。

しかも美味しそうね。

「成程、それなら楽に出来そうね」

「はい。卵焼きを黒焦げにしてしまう星野さんでも、かろうじて作れる範囲だと思います」

「…」

ちょっと誰か、お箸持ってきてもらって良い?

「ピーマンとか玉ねぎも一緒に焼くと、彩りも良くなりますよ」

「分かった。じゃあ…ピーマンは苦いから、玉ねぎ買ってこうっと…」

そう言いながら、野菜売り場に向かうと。

それはもう、びっくりする光景が広がっていた。

凄い人。人。人。

陳列棚を囲んで、おばさん達がひしめき合っている。

ど、どうしたの。何があったのよ。

「な、何でこんなに人が多いの?あの人達、何やってるの?」

「野菜の詰め放題です。ワンコインで、ビニール袋いっぱいにじゃがいもと人参と玉ねぎが詰め放題なんですよ」

と、結月君が説明してくれた。

詰め放題ですって?

私も詰め放題は好きだよ。ヘアアクセサリー詰め放題とか、ソックスの詰め放題とか、たまに真菜達とやるもの。

「これ可愛い!」

「こっちも可愛いよ」

「あ〜!欲しいの全部入るかな〜」みたいな。

でも、この詰め放題、私が知ってる詰め放題と違う。

何だか皆、目が血走ってない?

「あ、あの人達大丈夫…?正気を失ってるんじゃないの…?」

「いえ、至って正気です。このスーパーの詰め放題は、かなり良心的でお得なので。僕もよく利用してるんです」

そ、そうなの?

「でも、あの人…見て。血眼になって、ビニール袋を引っ張ってるわよ。やっぱり正気を失ってるんじゃない?」

何でビニール袋を引っ張ってるの?

有り余るパワーを発散してる?

「いえ、あれは少しでもビニール袋を広げて、一つでも多く野菜を詰め込む為に、わざと引っ張ってるんです。詰め放題の基本です」

あれが基本なら、私が今まで知っていた詰め放題とは、一体。

「何だか怖いわね…。玉ねぎなら、そこに3個詰めのパックがあるし、そっちを買おう…」

「…じゃあ、僕はちょっと行ってきます」

え?

結月君、君…今何て?