…と、まぁちょっと良い話みたいに言ってるけど。

実は、そんなにへらへらしていられないのよね。

結月君は慣れた手付きで、カバンの中からお弁当の入ったトートバックを取り出していた。

あ、あのトートバックも和柄だ。

さてはお主、それも縫ったな?お手製だな?

それどころか、お弁当箱を包んでいるハンカチも、結月君が縫ったものであるらしく。

端っこに、金魚の刺繍がしてあった。

冷静に考えたら、結月君って刺繍も得意なんだよね。

さすがの女子力。
 
「君は、生まれてくる性別を間違えたんじゃないかな…」

「え、な、何ですか?いきなり…」

「気にしなくて良いのよ」

羨ましくない。えぇ、羨ましくなんてありませんとも。

…。

…今ここにハンカチがあったら、血の涙を流しながら噛み千切ってるわね。

「それにしても、星野さんがお弁当って珍しいですね。どういう風の吹き回しなんですか?」

酷い言いようじゃないの。

「今日はちょっと、新しいことに挑戦してみたの。結月君を見習おうと思って」

「僕を…?」

私は、机の上に自分のお弁当箱を置いた。

…うぅ。勇気が出ない。

でも、折角持ってきたんだし…。

えぇい、ままよ。

「じゃん!今日は私、自分のお弁当を…自分で作ってきました!」

毎日、年中無休で自作のお弁当を持ってきている結月君にとっては、それが何だと思うかもしれないが。

普段は何処かで買うばかりで、そもそもお弁当を持ってくる習慣がなく。

ましてや、お弁当を自分で作ってくるなんて。

私にとっては大きな一歩だった。

お母さんにとっても、そうだったようで。

昨日私が「明日自分でお弁当作るわ」と言ったら、びっくり仰天された。

それこそ、「一体どういう風の吹き回し?」状態。

普段、どれだけ何もやっていないかがバレるわね。

でも、今日は頑張った。

「目覚ましをセットして、ちゃんと早起きして…お弁当作ってきたのよ」

「ほう…。凄いじゃないですか」

と、結月君も褒めてくれた。

ありがとう。

もうそれだけで充分だわ。

だって、このお弁当は…。

「見せてもらえませんか?どんなお弁当作ったのか…。僕、人のお弁当がどんな感じなのか、いつも気になってたんです」

「…」

「お弁当のおかずって、ついワンパターンになりがちじゃないですか。人のお弁当を見ることで、新しいアイデアが浮かぶかもしれない」

成程、それは一理あるわね。

結月君が見たがるのも理解出来る。

…でもね。

「…見せてあげないわ」

「えっ」

見せられる訳ないでしょ。私のお弁当なんて。

だって、このお弁当は…。

…日の丸弁当と良い勝負が出来るんじゃないかってくらい、超手抜き弁当なんだから。