結月君に連絡した、次の日の放課後。

私は、一緒に帰ろうと言う真菜の誘いを断って、一人で体育館裏に向かった。

昨日のメール。

昨日、結月君に送ったメールは。

『明日の放課後、体育館裏で話したいことがある。』というものだった。

たったこれだけの文章を送る為に、一時間以上を費やした。

私の送ったメールは、返送されては来なかった。

だから多分、結月君のもとに届いてはいるはずだ。

でも、結月君からの返信は何もなかった。

彼が、私のメールを読んだのかどうかは分からない。

届いた傍から、開くことなく削除しているかもしれない。

その可能性は充分にある。

今更私からの連絡なんて、見たくもないに決まってる…。

それに、仮にメールを読んでくれていたとしても。

彼がメールの指示に従って、今日ここに来てくれるかは、甚だ疑問だ。

自分で誘っておきながら、無理なんじゃないかと思っているくらいだ。

彼にはもう、私と交わす言葉なんてないはずだ。

結月君が言いたいことは、既に全部言っているのだから。

私が呼びつけても、結月君にとっては。

「今更何の用だ」としか思わないだろう。

自分騙し続けた憎い女に、わざわざ会いに来る義理はない…。

そんなことは分かっていた。

分かっていたけど、私にはこれ以外の方法を見つけられなかった。

どうしても、結月君に会いたかった。

会って、自分の気持ちを伝えたかった。

それが卑怯なことなのだとしても。

自己満足に過ぎないのだとしても。

でも、伝えないままに結月君と決別することは出来なかった。

私を軽蔑していたあの眼差しが、今でも脳裏によぎる。

思い出す度に、傷口が抉れるような痛みを感じる。

でも、それが何だと言うんだ。

結月君が受けた痛みに比べれば、こんなもの…。

…。

…結月君は、来るだろうか。

私は、恐る恐る周囲を見渡した。

何処にも人影はない。

…やっぱり、メールを読んではいないのだろうか。

今頃、とっくに校門を出ているのだろうか。

…仕方ないよね。

結月君が私に会う理由なんて、何もないんだから。

何をやってるんだろう、私は。

放課後にこんなところに来て、来ないはずの相手を待ち続けて。

本当に馬鹿みたいだ。

だけど、それでも私は、どうしても。

どうしても結月君に伝えたいことがある…。

もしかしたら、あれほど優しい人だったから、もしかしたら。

万に一つでも、ここに来てくれるんじゃないかって、そんな淡い期待を抱いてしまって…。

…そのとき。





「…何をやってるんですか、こんなところで」

「…!」

私は、声の聞こえた方に振り返った。

そこには、私の待ち焦がれていた人がいた。