星と月と恋の話

私は、一瞬迷った。

私の心の弱さが、二人に泣きつけと言っていた。

結月君にこんなことを言われたんだと。そのせいでたくさん泣かされたんだと、二人に訴えかけろ、と。

そうすれば、二人共きっと慰めてくれただろう。

でも、出来なかった。

どうしてそんな卑怯なことが出来るだろう。

そこまでしてしまったら、私は本当に…救いようのない人間のクズだ。

結月君を傷つけたのは私なのに、私が被害者面して友達に泣きつくなんて。

それは、結月君を悪者にする行為に他ならない。

結月君は何も悪くないのに、どうしてこれ以上、彼を悪者に出来るだろう…。

一瞬でも、二人に泣きつこうかと迷ってしまった自分の醜さにさえ、吐き気がする。

この期に及んで、私はまだ、そんな卑怯なことを考えるなんて。

あまりの醜さに、また涙腺が緩みそうになるのを必死に堪えた。

そして、私は無理矢理笑顔を作った。

「う、うん、大丈夫。ちゃんと円満に…別れられたよ…」

あれを円満と呼ぶなら、世間一般のカップルの別れ話は、修羅場以外の何物でもないわね。

「へぇ。三珠クン、全然食い下がらなかったんだ?」

「…うん…」

食い下がってはこなかったね。勿論。

私みたいな女と付き合うことに、結月君が執着するはずがない。

むしろ、祝杯をあげているのは彼の方だろう…。

「ふーん。意外と潔いんだね」

「それだけ、自分の立場をよく分かってるんじゃない?」

「そうね。星ちゃんと三珠クンじゃ、元々釣り合うはずないもの」

私もそう思うわ。

私は、あの人に釣り合わない。

あんな優しい人に…私なんかが釣り合うはずないじゃないか。

そう言いたいけど、二人が理解してくれるとは思えなかった。

「まぁ、三珠クンにとっても良い思い出になったんじゃない?」

「そうそう。思い出作りに協力してあげたんだから、感謝して欲しいくらいだよねー」

「一応これで、彼女いない歴=年齢から卒業出来て良かったじゃん」

本人がいない間に、二人共言いたい放題だった。

そんなこと、結月君は考えてないよ。

彼にとってこの三ヶ月が、良い思い出であるはずがない。

三ヶ月前の私なら、真菜や海咲と同意見で、一緒に笑っていたことだろう。

だけど、今なら分かる。

そんな風にして彼を笑うことが、どれほど罪深いか。

どれほど許されないことをしているか…。

だけど、それをどうやって二人に説明すれば良いんだろう。

説明して理解してもらえるはずがない。

結月君の…あの蔑みの目。

あの目で見られて、私はようやく自分の罪に気づいたのだから…。

…すると。

「おっ、噂をしたら来たよ」

「え…?」

「三珠クンだよ、ほら」

真菜が教室の入り口を指差した。

反射的に目をやって、そして私は、蛇にでも睨まれたかのように硬直した。