星と月と恋の話

しかし、あれですね。

大人数でやるババ抜きは、誰がジョーカーを持っているか分からないから。

いつジョーカーを引いてしまうかと、ハラハラしながらプレイ出来るけど。

二人きりのババ抜きだと、誰がジョーカーを持っているのか丸分かりだから、つまんないですよね。

自分が持っているか、自分じゃなかったら相手が持ってる訳ですから。

こうなると、ババ抜きよりジジ抜きの方が良いんじゃないか、って気になるけど。

この人多分、ジジ抜きのルールを知らないだろうから。

諦めてババ抜きを続けよう。

むしろ、知ってるトランプのルールは何なんですか。

さっき七並べやったけど、七並べは娘さんに教えてもらったルールらしくて。

まだまだド素人のプレイングだった。

七並べのコツは、8と6を極力温存して、相手を苦しめることです。

なんて、今はババ抜きをやってるんで七並べのことは良い。

僕の手札の中…にジョーカーはない。

ということは、師匠が持ってるんだろうな。

自分の手札を見て、物凄く露骨に顔をしかめている辺り、一目瞭然だな。

ポーカーフェイスを何処に忘れてきたんですかね。

これじゃあ、勝てるものも勝てませんよ。

「じゃあ、先攻は譲るので、どうぞ」

「分かった」

何が楽しくて、男二人でババ抜きをやってるんだか。

よし、考えないことにしよう。

お互い札を捲っては、ペアを作って捨て札に溜めていく。

そんなことを繰り返しながら、ふと。

師匠が思い出したかのように言った。

「…そういえば、あれから」

「あれから?」

「何か、進展はあったのか」

「…」

…何の話ですか、と聞けたら良かったんだけど。

すぐに分かってしまった。

そりゃそうだ。みっともなく、めそめそと泣き顔晒したくらいなんだから。

もしかしなくても、星野さんとのことだ。

…とはいえ。

「何の進展もないですね」

これは事実だ。

去年の、クリスマスイブの日。

イルミネーションを見に行った帰り道、盛大な「ネタばらし」をして以降。

一度も星野さんには会っていない。

何なら、連絡も取ってない。

携帯電話のアドレス帳から、彼女の名前が消えた訳でもない。

消したくないから消してないんだろう、って?

別にそんなつもりはない。

ただ、いちいち消すのも面倒だから、そのままにしているだけだ。

しかも、消したら、何だか当てつけのような気がして。

いずれにしても、あんな別れ方をした以上、もう彼女の方から連絡を入れることはないだろうし。

僕の方からも連絡をする気は全くない。

僕と彼女を繋ぐ糸は、完全に切れている。

お互い、好きなことをすれば良い。

あの人は、菅野さんから好意を寄せられてるんだし。

馬鹿は馬鹿同士、今頃くっついてるんじゃないのか?知らないけど。