星と月と恋の話

それから、およそ10分後。

「良かったですね、さっきより一組増えましたよ」

「ぐぬぬ…」

先程の対戦では、4組しか当てられなかった師匠が。

今の対戦では、5組も当てられた。

わーすごーいおめでとうございまーす。

うん、超弱い。

これでも僕、結構加減してるんですよ。

「確かあの札、あそこにあったと思うけど、師匠に譲るか…」みたいな感じで。

それでも、何故か狙っているかのように、明後日の札を捲ってる。

「おい!そこじゃない!」って、何度思ったか。

なんか一周回って、じれったくなってきた。

「どうやったら勝てるんだ…」

「うーん…。よく言われてるのは、自分が覚えられる最低限だけ覚える、って奴ですかね?」

「最低限…?」

って、言っても僕はやったことないんですが。

「はい。端っこだけを覚えるとか、盤面の左半分だけを覚えるとか、『ここだけは覚えよう』と自分で決めたところを、確実に覚えるのがコツだそうです」

「それで勝てるのか?」

「神経衰弱に勝とうと思ったら、全ての札を覚える必要はありません。ようは、相手より一組多く当てれば、それで勝ちなんです」

今みたいに、大差をつける必要はない。

一組でも相手より多く札を入手すれば、それだけで勝ちなのだ。

野球でも、言うだろう?

例え20点取られようと、こちらが21点取れば勝ちだ、って。

…いや、野球で20点も取られたら、それはそれで大事故ですけどね。

これはまぁ、比喩だとして。

「覚えられるところを確実に覚えて、確実にそのエリアの札は入手する。これを繰り返すだけで、勝率上がるんじゃないですか?」

「な、成程…。子供の遊びでも、なかなか奥が深いんだな」

子供だけがやる訳じゃありませんからね、神経衰弱。

古今東西老若男女、誰でもやりますよ。

当然、様々な戦略を打ち立てて、それこそ神経衰弱必勝法、みたいなのを知ってる人もいるだろう。

…とはいえ。

「師匠の場合、相手はお嬢さんですからね。そんなに戦略に固執しなくても良いと思いますけど」

相手はお嬢さんなんだから、戦略なんて使わなくても良い。

それは大人気ないというものだ。

お嬢さんに勝たせてあげる、くらいの精神で丁度良い。

「お前は良いな。記憶力が良くて」

「ありがとうございます。僕はむしろ、師匠の記憶力のなさを、切実に心配してます」

「うぐっ…」

4歳児に神経衰弱でボロ負けって、それは大人としてどうなんですか。

これじゃあ、いつお嬢さんが、

「パパとトランプするのつまんない」と言い出すか、分かったものじゃないな。

何度も言うように、子供って残酷だから。思ったことは何でも言うと思うよ。

頑張れ師匠。

「次はどうします?また神経衰弱ですか?」

「いや、今度は…ババ抜きを頼む」

「ババ抜きですね。じゃあ、ジョーカーを一枚捨てて…っと」

シャッフルして、配るとしましょうか。