星と月と恋の話

「次、何します?」

「もう一回、神経衰弱をやってくれ」

また神経衰弱ですか。

さっきあなた、4組くらいしか取れてなかったように思いますが。

まだ負け足りないようなので、じゃあお望み通り。

フルボッコにしてあげましょう。

ちなみに僕は、神経衰弱とかの「覚える系」のゲームは得意分野だ。

外国語の単語とか、熟語とか、丸暗記するタイプですから。

「神経がすり減るから、嫌なんじゃなかったんですか」

「神経がすり減るのは嫌だが、でも最近の娘のブームが神経衰弱なんだ」

成程、それは残念でしたね。

「おままごとセットで遊んでるんじゃないんですか?」

「あぁ。でも大抵、二時間足らずでおままごとセットに飽きて、別の遊びをしたがるんだ」

まぁ、子供っていうのは、あちこち気を逸らしたり、色んなものに興味を持つ生き物ですからね。

むしろ、あのおままごとセットで一時間以上遊んでいるなら、上等か。

「4歳で神経衰弱が得意とは…。もしかして、お宅のお嬢さん、頭が良いのでは?」

「やはりそうなのか?」

やはりって。

自覚してたんですか。親馬鹿。

「そうですね。とても師匠のお嬢さんとは思えない賢さです」

「そうか…。妻の血が濃いんだろうな…」

「僕もそう思います」

うっかり、師匠の血の方が濃くなくて助かった。

師匠二世が現れたら、もう目も当てられない。

奥さん、師匠を反面教師にして、頑張ってお嬢さんをしっかりした子に育ててください。

「はい、じゃあ始めましょうか」

僕は、几帳面にトランプの札を並べた。

「先攻は譲る…と言いたいところですが、神経衰弱は後攻の方が有利なんですかね、やっぱり」

「そうなのか?」

「まぁ、大して変わりませんけど。じゃあ、僕から行きますね」

一番端っこの札を捲る。ハートのA。

すぐその下の札を捲る。クローバーの4。

不正解か。

札を戻して、後攻を譲る。

「はい、どうぞ」

「分かった」

師匠は何処から攻めるのか、と思ったら。

何故か、さっき僕が捲ったのと同じ、クローバーの4を開いていた。

「何でそこなんですか?」

「え?さっき見て覚えてたから…」

それはおめでとうございます。

でも。

「序盤は、盤面の情報を少しでも増やす努力をしましょうよ」

「…?」

「色々捲ってみて、何処にどの札があるのか覚えましょうってことです」

「それは…難しいな…」

眉間に皺を寄せていらっしゃる。

僕、そんなに難しいこと言いました?