星と月と恋の話

一方。

女性陣が、仕事部屋でそんな会話をしているとは知らない僕と師匠は。

「はい、上がりです」

「む…うむむ…」

唸っても何しても、僕の勝ちです。

僕は、机に並べたトランプの札を回収した。

男二人で何をやっているのかと言うと。

トランプである。

今は、丁度神経衰弱をしていたところだ。

「神経衰弱か…。神経を衰弱させるゲームとはよく言ったものだ。神経がすり減らされる…」

師匠は、こめかみを押さえながら呟いた。

ただの子供の遊びじゃないですか。

「もしかして、子供にはやらせない方が良いんじゃないか?ここまで神経をすり減らすゲームは、身体に悪い気がする…」

「それは、あなたが下手過ぎるからだと思いますよ」

「うぐっ…」

女性陣が仕事部屋に行ってから。

取り残された男二人は、お嬢さんが持ってきたトランプを取り出して、さっきから色々遊んでいるが。

この人、トランプ下手過ぎ。

今のところ、ババ抜き、七並べ、神経衰弱の三種のゲームをやってみたけど。

僕、ずっと全勝。

しかも圧勝。

目瞑ってても勝てそう、という言葉が過言に聞こえないレベル。

そもそも、何でトランプなんかやっているのか、という話だが…。

「そんなんじゃ、お嬢さんにも全敗しますよ」

「う…。既に何度も負けてる…」

「こんなに弱くちゃ、お嬢さんもつまらないでしょうね」

どうも、師匠のお嬢さんが通ってる幼稚園で、トランプ遊びが流行っているそうで。

年末に帰ってきたときから、「トランプで遊びたい」と再三せがまれているのだとか。

しかし。

うちの師匠、柔術に関してはあれだけ強くて負けなしなのに。

トランプゲームに関しては、クソ雑魚も良いところ。

記憶力云々の問題、と言うより。

これまでトランプゲームをしたことがないせいで、ルールをまだよく呑み込めていない。

上に、頭を使うのが苦手なので、あれこれ戦略を考えられないらしい。

トランプゲームには致命的な弱点だ。

ついさっき「練習に付き合って欲しい」と、一組のトランプ(お嬢さんのトランプらしく、猫のキャラクター付き)を取り出して。

遊び始めたけど、師匠の弱さは、成程4歳児にも負けるだろうなぁ、と思うほど。

この人、本当何かに付けて極端だよなぁ…。

得意なことはめちゃくちゃ得意なのに、苦手なことはとことんまで苦手。

と言うか、ルールをよく知らないだけなんだろうけど。

「父親の威厳も地に落ちましたね」

「ぐぬぬ…」

悔しそうにしたって、負けっぱなしじゃ威厳も何もない。

何なら、トランプのシャッフルすら出来ないらしく。

さっきからゲームが終わる度に、逐一僕がシャッフルしている。

シャッフルの練習なんて、どうやったら良いんだろうな。

…しかし、冷静に考えると。

キラキラした猫のキャラクターのトランプで、良い歳したおじさんと、もっさりした男子高校生が二人で遊んでるって。

なかなかシュールな絵面だと思う。

それでも、少なくとも師匠の方は真面目なのだ。

少しでもトランプを上手くならないと、お嬢さんと一緒に遊んでもらえなくなるからな。