星と月と恋の話

…母の仕事部屋にて。

「本当に、素晴らしい息子さんをお持ちで羨ましいですわ」

と、相変わらず師匠の奥さんは、僕のことを褒めていた。

勿論、別室にいる僕には聞こえていないけど。

「あの歳で、家のことは何でも出来るし、お仕事の手伝いもされてるとか」

「えぇ…本当に、私には勿体ないくらい、立派に育ってくれました」

母も母で、少しも謙遜せずに認めていた。

僕がこれを聞いていたら、「いや、そこはちょっと謙遜しようよ」と言っていたと思う。

「羨ましいですわ。うちの主人にも、爪の垢を煎じて飲ませたいくらい…」

「ご主人も立派な方じゃないですか」

「とんでもない。しょっちゅう結月君に手伝ってもらって…。本当に、申し訳ないやら有り難いやら…」 

「それはこちらもです」

母は、仕事用具を出しながらそう言った。

「幼い頃から、お宅にお邪魔して…無償で稽古をつけてくださって」

「そんな…それは主人が好きでやっていることですから、気になさらないで」

「それ以外にも、色々相談相手にもなってくださってるようですね。うちは…父親が居ませんから、あの子にとっては父親代わりのようなものです。本当に感謝しています」

父親代わり。

僕にそのつもりはなかったし、師匠がどういうつもりなのかは分からないけど。

言われてみれば、そうなのかもしれない。

「これからも、息子を宜しくお願いします」

「いいえ、こちらこそ…」

ぺこぺこと、頭を下げ合う母親二人。

男達の見ていない間に。

「…さて、それじゃあ、お嬢さんの着物を見繕いましょうか」

「えぇ、お願いします」

こうして、二人はようやく、仕事の話に戻った。