星と月と恋の話

すると、そこに。

「こんにちは。ようこそいらっしゃい」

襖を開けて、母が居間に入ってきた。

「あけましておめでとうございます、昨年は色々とお世話になって…」

「いえいえ、こちらこそ。今年も宜しくお願いします」

お互いに、膝をついて挨拶を交わす母二人。

新年の挨拶と言うのは、毎年同じ文句を口にするだけだというのに、長ったらしくて大変だ。

でも、これも毎年必要なことだから。

「それで、今日は…お嬢さんのお着物をお作りしたいとか?」

「えぇ。七五三のお参りに着ていく着物が欲しくて」

「分かりました。お任せください」

母はにこりと微笑んだ。

年齢は違えど、母親同士、この二人はよく話が合う。

今日は母も体調が良いので、僕が採寸する必要はない。

採寸くらいなら出来る、とは言ったものの。

僕がやるより、やはり母にやってもらった方が確実だから。

「それじゃ、早速向こうの部屋で…」

と、母は言いかけたが。

「やだ。お兄ちゃんと遊ぶ!」

お嬢さんは、ほっぺたにきな粉をくっつけたまま、僕にくっついてきた。

びっくりした。

「え、あ、遊ぶって…」

「お兄ちゃん、あそぼ」

目をくりくりとさせて、お嬢さんにせがまれた。

お姫様直々のご指名とは、なんとも有り難き幸せ。

でも。

「良いですよ。後で一緒に遊びましょう」

遊ぶのは良いけど、それは着物の採寸が終わってからだ。

「え〜…今すぐが良い」

「こら、我儘を言って…」

駄々をこねるお嬢さんに、奥さんがたしなめようとしたが。

「大丈夫ですよ。後で一緒に遊んであげますから。その前にちょっと、お洋服選びに付き合ってもらえませんか?」

僕はお嬢さんに向かって、宥めるようにそう言った。

正しくは、洋服じゃなくて和服なんだが。

まぁ、言葉の綾という奴だ。

そう言った方が、子供には分かりやすいかと思って。

「ね、お願いします。ちょっとだけ付き合ってください。すぐ終わりますから。お嬢さん、良い子だから我慢出来ますよね」

ちょっと自尊心を刺激するようなことを言って、お嬢さんのふわふわした髪の毛を撫でる。

すると。

「ん〜…。いいよ!」

お姫様の許可を頂きました。

何とも、素直で良い子ですよ。

「ありがとうございます。じゃあ、終わったら一緒に遊びましょうね?」

「うん、あそぶ!指切り〜…」

「はい、指切りげんまん…」

嘘ついたら針千本…って、これはもう古いんですかね。

今時は何て言うんだろう。

ともあれ。

素直なお嬢さんは、奥さんに連れられて、母と共に仕事部屋に向かった。

いってらっしゃい。