星と月と恋の話

「悔しいです。僕、今…物凄く悔しくて、情けないです」

「…」

「あんな最低な人間を、罰ゲームと称して、他人を平気で傷つけるような人間を…心の底から憎めない自分が、物凄く情けないです」

「…人を憎みたくないと思うのは、人間として当然だ」

そうですね。

でも僕は、騙された側の人間なんだから。

馬鹿にされたんだから、その分は怒らなきゃならないはず。

それなのに、そんなことさえ出来ずにいる。

「虚しいだけなんです。何でこんなことになってしまったんだろうって…」

「…」

「僕は…僕はどうすれば良かったんですか?」

誰か。誰でも良いから教えて欲しい。

僕はどうするのが正解だった?

笑って、星野さんを許してあげれば良かったのか。

騙されていることが分かっていて、へらへら許せば良かったのか。

出来るはずがないだろう、そんなこと。

許せるはずがない。あの人は、僕を騙して…。

「…どうしたら良かったのかは、自分には分からないが」

と、師匠はポツリと言った。

「お前は信じたかったんだな。騙されていると分かっていても…。心の何処かで信じようとしていた」

「…」

僕が…。

僕が、星野さんを信じる…?

そんな、まさか…そんなこと、あるはずない…。

「だから裏切られて悲しかった。裏切られて悲しいから、復讐したいと思った。自分が悲しんだように、相手も悲しませてやろうと」

「…」

「だが、そんな復讐は虚しいだけだ。お互いが悲しむだけだ。…今のお前のように」

…それは…。

「きっと相手も、今のお前のように悲しんでいることだろう」

…そんな馬鹿な。

「悲しんでなんかないですよ、あの人は」

今頃、お友達と祝杯をあげていることだろう。

虚しい復讐をした僕を、皆で笑っていることだろう。

「本当にそうか?」

「え…?」

「他人を殴った者は、自分の拳も痛める。それが誠実な相手であればあるほど。だから、お前をこれほど苦しませた人間なら、今頃その痛みに耐えかねているだろう」

…そんな、まさか。

だって星野さんは、今頃お友達と…。

僕を苦しめたことを、少しも悪びれもせず…。

「他人を傷つけた者は、いずれ必ずその報いを受ける。それがどんな形であろうとも」
 
「…」

じゃあ、僕が今こんなに苦しんでいるのも。

星野さんを傷つけた、その報いだとでも言うのか?

馬鹿らしい。傷つけられたのは僕の方だ…。

「…僕、どうしたら良いと思います?」

今更、どうすることも出来ないかもしれないけど。

この胸の痛みが少しでも消えるのなら、何でもしたい気分だった。

「お前に出来ることは二つある」

ほう。

「一つずつ聞きましょうか」

「まず、泣き止んでくれ。目の前で泣かれると…どうにも、居心地が悪い」

あぁ、それはどうも申し訳ありませんでしたね。

僕は手の甲で涙を拭った。

僕の目は蛇口じゃありませんからね。

「じゃあ、二つ目は?」

「許すことだ。己のことも、他人のことも」

…許す。

僕が、自分のことを…そして、星野さんのことを許す。

それが正しいことだと言うのか。