星と月と恋の話

「別に…八つ当たりしていたつもりは…」

「そうか…。まぁ、言いたくないなら無理には聞かないが」

「…」

「…もう何回か、投げておくか?」

「…もう結構ですよ」

これ以上投げられたら、明日の筋肉痛が手に負えなくなる。

それに…もう、観念しましたよ。

母に相談なんて絶対出来ないけど。

加賀宮さんなら、話は別だ。

「…誰にも言わないでもらえますか?」

「心配しなくても、告げ口をする相手がいない」

あなたが言うと説得力が段違いですね。

じゃ、遠慮なく。

「…この三ヶ月、僕、彼女がいたんですよ」

「…」

「その彼女と、昨日別れてきたばかりなんです」

…あぁ。

とうとう言ってしまった。誰にも言わずにおこうと思っていたのに。

でも、やっぱり誰かに言わずにはいられなかった。

さて、僕の師匠はどんな反応をするだろうか?

「…」

たっぷり、30秒ほど沈黙した後。

師匠は大の字に床に寝そべったままの僕の傍らに、スッ、としゃがみ。一言。

「…おはぎでも買ってこようか?」

…慰められてしまった。

僕の好物、覚えててくれてたんですね。ありがとうございます。

でも。

「あなた出かけないじゃないですか…」

「あぁ、うん…。でも、そんなに落ち込んでるなら善処する」

それはどうも、ありがとうございますね。

でも。

「別に慰めて欲しい訳じゃないので、結構ですよ」

「なら、何をすれば良い?」

「話を聞いてください」

「分かった。聞こう」

それはどうも。

僕がのろのろと起き上がろうとすると、師匠が手を貸して起こしてくれた。

はぁ、背中痛い。

でも、今はそんなことどうでも良いな。

「別にね、好きで付き合ってたんじゃないんです。元々、向こうから告白してきて…。僕はその人のことなんて、ほとんど知らなかった。嫌われてると思ってたし、僕だって彼女に興味はなかったんです」

ただのクラスメイトの一人、でしかなかった。

まぁ、中2の頃の出来事があったから。

ただのクラスメイト…と言うよりは、嫌いな部類に入ってたけど。

「それでも付き合ったのか」

「えぇ。思えば…あのとき、素直に断っていれば良かった」

でも、断らなかった。

このふてぶてしい、嘘つき女に。

ちょっとした復讐心が頭をもたげて、付き合ってやろうと思った。

あれが間違いだった。

そもそも、あんな人間と関わり合いになるべきじゃなかったのだ。

そうすれば…今、こんな気持ちになることはなかった。

「何で、彼女が僕に告白してきたと思います?」

「…お前が頭が良いからじゃないのか。家庭的だし」

僕のこと、そんな風に評価してくれてたんですか? 

それはありがとうございます。

「以前、妻も言っていた。お前と付き合う女は幸せ者だと」

奥さんにも、そんなこと言ってくれてたんですか?

それは過大評価というやつですよ。

「違いますよ。彼女は間違っても、僕の人柄を評価して僕に交際を申し込んだ訳じゃないんです」

「なら、何の為に?」

「罰ゲームの為です。彼女が僕に告白してきたのは、罰ゲームの一環なんですよ」

「…」

「…加賀宮さん?」

何故黙る?

顔を上げてみると、師匠は訳が分からないみたいな顔をして。

「…罰ゲームって、どういう意味なんだ」

と、聞いた。

あなたって人は、本当に純真無垢と言うか…。

出来れば一生このまま、何も知らないあなたでいて欲しいですよ。

まぁ、説明するんですけどね。