星と月と恋の話

「はぁ…」

「それは何の溜め息だ?」

「いいえ…?10年師事して、未だにこの体たらくじゃ…。進歩を感じないなと思って」

別に、勝ちたいとまでは思ってないけど。

せめて、せめて一本取ってみたい。

無理ですか。それさえ駄目ですか?

「そんなことはない。お前は才能がある」

と、師匠は涼しい顔で言った。

おいおい。何の冗談ですか。

「散々投げられた後に褒められても、全然嬉しくないですよ」

「それは、お前が投げろと言うから…」

「それに、僕に才能があるんじゃなくて、僕の他に弟子がいないからそう見えてるだけでは?」

「そんなことはない。お前は昔の自分よりずっと強い。このまま研鑽を積めば、自分より強くなる」

…師匠より強くなる?僕が?

今のところ、そんなビジョンは見えませんが。

「この道場をいつか譲るとしたら、それはお前だ」

なんて、とんでもないことを言ってるし。

これは昔からよく師匠が言ってることだ。

いつか、道場を誰かに譲るとしたら、それはお前だと。

僕以外弟子がいないからだろうと思っていたけど…。

「お嬢さんに継がせるんじゃないんですか?」

他人に継がせるより、実の娘に継いでもらった方が良いでしょうに。

それとも、こんな野蛮な柔術を娘には教えたくないか?

「娘にお前を越えるような才能があればな。そうでないなら、お前に継いで欲しい。血の繋がりは関係ない。実力が物を言う世界だ」

「…」

「とはいえ、お前には家業があるからな…。どうしてもと言うなら、無理強いは出来ないが…。考えておいては欲しい」

そういうことを、平気で言っちゃうから…。

…しかも、それだけではなく。

「…それで、一体何に八つ当たりしてたんだ?」

「はい…?」

ボールのように投げられて、頭の中を空っぽにするつもりが。

「お前にしてはいつになく、冷静さを欠いた八つ当たり的な動きだったから…。何かに八つ当たりしてるんだろう?」

「…」

何もかも見透かされていて、僕は秘密を作るということが出来ないんじゃないかと、不安になる。