星と月と恋の話

何で気づいてないと思ってたんだろう。

どうしてあんなに馬鹿なのか、どうやったらあんなに愚かになれるのか、僕には分からない。

クラスの中でも噂になっていたのを知らないのか?

僕と星野さんがいきなり付き合い始めたことを、当然クラスメイトは訝しんだ。

あの星野さんが、何で僕なんかと付き合っているのか。

皆色々な憶測をして、星野さんの最低なお友達集団に尋ねて、あれは罰ゲームの一環なのだという噂が広がって。

その噂は、僕の耳にも届いていた。

当然だ。

その噂を聞いて、「やっぱりこれは罰ゲームなんだ」と確信したのは、付き合い始めて一ヶ月も経ってない頃だった。

つい先日だって、バスの中で喋っていたじゃないか。

クリスマスイブに僕に別れ話をして、明日のクリスマスに、罰ゲーム終了の打ち上げ会をするんだろう?

何で聞こえてないと思うのか。

人間、都合の悪い話は、他人に聞こえていないと思い込むんだろうか。

それとも、僕に聞こえても良いつもりだったのか?

絶対そんなことまで考えていない。

ああいう人種は何も考えていないのだ。馬鹿だから。

そんな下らない罰ゲームをしたら、相手を傷つけてしまうこと。

最悪、相手の人生に消えない傷をつけてしまうかもしれないこと。

それすら想像が出来ない。

ただ、目の前の刹那的な快楽だけを求める。

考えることが出来るのが人間の長所なのに、その思考さえ出来ないなら、それはただの畜生だ。

だから僕は、罰ゲームだと分かっていて彼女と付き合ったのだ。

馬鹿は死ぬまで治らないし、つける薬もないが。

いくら馬鹿でも、痛い目を見ればしばらくは反省するかと思って。

まぁ、馬鹿だから、喉元を過ぎればまた忘れてしまうんだろうが。

せめて、第二、第三の被害者が出ないように。

分からせてやったのだ。自分の愚かさを。

星野さんは、僕と別れるこの日を待ち焦がれていたのだろうが。

僕だって、この日を待ち焦がれていた。

盛大に「ネタばらし」する日を、ずっと待っていた。

みっともない顔でめそめそ泣いてて、それなりにスッキリしたけれど。

こうして、家に帰ってきてみると。

今僕の胸の中にあるのは、虚しさだけだった。

…何でこんな気持ちになるのか。

喜ぶべきだろう。やっと、僕の平穏な日常が戻ってきたのに。

もう白々しい演技をする必要もないのに。

馬鹿な女に、身の程というものを教えてやってスッキリしたはずなのに。

今はただ、ただ虚しいだけだった。

…意味が分からない。

何で、こんな気持ちになるのか…。

…泣いている星野さんの顔が、脳裏に焼き付いて離れない。

もう僕には関係のないことなのだから、忘れてしまえば良いのに。

相手の自業自得なのだから、僕が罪悪感を感じる必要はないのに。

何だか、弱い者いじめをしてしまったような。

動かない動物を、鞭で叩いてしまったような。

そんな気がするのだ。