星と月と恋の話

「そんなつまらないことをいつまでも覚えていて、執念深い奴だと思ってるんでしょう?」

「そ、そんなこと…」

「良いですよ、勝手にそう思ってれば。幸せなことじゃないですか。傷つけられた者の気持ちが分からないなんて」

「…」

…何も言い返せなかった。

「僕は中学二年生のときのその出来事をずっと覚えていました。だから、あなたが僕のことをどう思っているのかは、あなたよりよく知っています。そんな人間が『ずっと前から好きだった』?…馬鹿じゃないんですか?」

結月君は吐き捨てるようにそう言った。

軽蔑の眼差しが、私に突き刺さった。

「嘘をついて告白して、付き合って。罰ゲームが終わったら『ごめんね、謝るからなかったことにして』。…本当に救いようがない。僕がこれを罰ゲームだと知っていたから良かったようなものの。本気にして騙されていたら、どうするつもりだったんですか?」

「…」

「あなた方の下らない悪ノリで、人に一生消えない傷をつけてたかもしれないのに。逆上して、首を絞められても文句言えないんですよ?」

小馬鹿にしたような口調で、結月君はそう言った。

「救い難いほどの、想像力の欠如。自分の言動が他人を傷つけるかもしれないからやめよう。そのくらいの分別、幼稚園児でもつく。笑って許してもらえると思ってるあなたは、人間ですらない。犬畜生です」

ぷらぷらと揺らしていたケーキの紙袋を、結月君は地面に投げた。

ぐしゃっ、と音がした。

「で?これは何ですか。騙されてた記念ですか?失恋記念ですか?騙されたショックで涙を流しながらケーキでも食べてろ、って?どれだけ僕のことを馬鹿にしてたら、そんな発想になるんですか?」

「…わ、私は…」

「…」

「せめて…お詫びの、つもりで…」

かろうじて、声を絞り出した。

しかし。

「あぁ、そうですか。それはどうも…ありがとうございました」

結月君は、ケーキの紙袋を踏み潰した。

そして、その踏み潰してぐちゃぐちゃになったケーキを拾って、返してやるとばかりに私に投げつけた。

避けることも、避けようとも思わなかった。

身体が硬直して動かなかった。

「僕からプレゼントですよ。罰ゲーム終了記念にどうぞ。あなたのクソみたいなご友人と、仲良く食べてください」

「…」

結月君の口から出てくる言葉を、私は震えながら聞いていた。

彼の口から、こんな汚い言葉が出てくるなんて思ってもみなかった。

彼の言う通りだ。

想像力の欠如。

結月君が傷つくかもしれないこと。当然傷つくに決まっていること。

全然、想像もしていなかった。

きっと許してくれると、そう思い込んで…。

でも、許されることじゃない。

許されるはずのない罪を犯していることさえ、私は気づいていなかった。

馬鹿だから。

結月君の言う通り、私は馬鹿だから。犬畜生にも劣る馬鹿だから。

今更気づいたって遅い。

結月君が私を罵倒するのは当然だ。

だって…ずっと彼を騙していたのは、彼を侮辱していたのは…私なんだから。

「…何を泣いてるんですか?」

そう聞かれて、私は自分が泣いていることに気がついた。

いつからか、止めどなく瞳から涙が零れ落ちていた。