星と月と恋の話

…つもり、だったのだけど。

「ぐるぐるかき混ぜるんじゃなくて、こうやって、タネを握り締めるようにして捏ねるんですよ。そうしたらよく混ざって粘りが出ますから」

「…はい…」

開始数分で、シェフと交代させられていた。

無念。

ハンバーグを捏ねるにもコツがあるのね…。

自分の無知さに、呆れて物が言えない。

「あとは、丸く成形して…」

「あ、知ってる。ペチペチするのよね?」

「はい、空気を抜くんです。…でも、僕がやるので大丈夫ですよ」

はい。済みません。

出しゃばってごめんなさい。

むしろ、何も手伝わないことが一番のお手伝いになってる説。

結月君にしてみれば、私の拙い作業を見ていたら。

「こいつ不器用過ぎるだろ、苛つく」とか思ってるのかもしれない。

心の底から申し訳ないわ。

せめて、私も何かの役に立ちたい…と思いながらも。

ほぼ、眺めているだけの私である。

せめて後片付けくらいは手伝おう…。

ペチペチと空気を抜きながら、綺麗な楕円形にハンバーグのタネをまとめる、熟練シェフの傍ら。

使った調理器具を洗って、片付けよう…としていたそのとき。

「星ちゃ〜ん…どうしよう」

と、情けない声で海咲が私を呼んだ。

うん?

「どうしたの、海咲?」

「なんかじゃがいもが固くて、全然マッシュポテトにならないの」

何ですって?

そんなカリカリのポテトサラダは嫌だ。

海咲に呼ばれて、ポテトサラダを作る二人の方に行ってみると。

隆盛が、じゃがいもで溢れんばかりの小鍋に、すりこぎ棒をぐいぐいと力任せに押し付けていた。

な、何事?

「ほら、見て。全然柔らかくならないの」

「うわ、本当だ。カチカチ…」

小鍋の中は、ほぼ原型を留めたままのじゃがいもが、すりこぎで中途半端に潰されていた。

「ちゃんと時間測って茹でたはずなのに…。何でこうなるんだ?」

「さっきからずっとこうしてるのに、全然潰れないのよ」

隆盛と海咲が口を揃えてそう言った。

成程、それは大変だ。

明らかに、二人共困ってる。

何とかしてあげたい、けれど…。

自慢じゃないけど私、全然頼りにならないことで定評があるのよね。

…こんなとき、私に出来ることは一つ。

「…結月シェフ!助けて!」

「は、はい?」

結局、いつもの結月君頼み。

情けなくて恥ずかしくなってくるわね。