星と月と恋の話

そんな熟練シェフの結月君を、手伝っているつもりでいながら。

むしろ、逆に足を引っ張っているだけなんじゃないかと、とても心配。

次は、刻んだ玉ねぎを炒めるんだよね。

飴色玉ねぎ、って奴だ。

じゃあ、フライパンとフライ返しが必要だね。

よし、取ってこよう。

家庭科室のフライパンを借りて、テーブルに持ってきた…ところ。

「あれ?」

結月君は、玉ねぎを耐熱ボウルに入れていた。

…?飴色玉ねぎは?

「ねぇシェフ、それ炒めるんじゃないの?レシピに書いてあるよ」

玉ねぎが飴色になるまでじっくり炒めます、って。

しかし。

「炒めるんですけど、そのまま炒めると時間がかかって仕方ないので、一度電子レンジで加熱しようと思って」

と、レシピに書いていないことを提案した。

ほう?

「レンジで温めるとどうなるの?」

「飴色玉ねぎが、比較的早く出来るんです」

ほう。

そうなんだ。それは知らなかった。

結月君は玉ねぎをラップにかけて、レンジで温め。

温めた玉ねぎをフライパンに入れて、じっくりと炒め始めた。

こうすると早いらしい。

比較したことがないから、本当に早くなっているのかどうかは不明…だけど。

結月君がそう言うのだから、きっと時短になっているのだろう。

へぇ〜。レシピに書いてないことでも、料理に関する豆知識って、色々あるんだね。

知らない私が馬鹿過ぎるだけの可能性もある。

しばらくすると、玉ねぎの色が濃くなり始めた。

おー、飴色だ。飴色。

「何だか、焦げてるんじゃないかって心配だけど…」

「そう見えますよね。でも大丈夫ですよ」

「この後はどうするの?」

「ひき肉と合わせるので、火を止めて…粗熱を取っておきましょう」

ほほう。いよいよ、ハンバーグの主役。

ひき肉さんの出番ですな?

ボウルにひき肉を入れて、そこに粗熱を取った飴色玉ねぎをイン。

「それから?」

「パン粉を牛乳に浸して入れます。それから卵も」

「はいはい」

私は、冷蔵庫から牛乳と卵を取り出した。

「それから調味をします。塩と胡椒と、それからナツメグ…」

「はいはい、出します出します」

いつの間にか私、材料出し係になってる。

良いじゃん。調理する作業は、どうやったって結月君には敵わないんだから。

せめて小間使いのように動いて、材料と道具を持ってこよう。

「全部入れ終わったら…あとは、粘りが出るまで捏ねます」

おっ?

「捏ねるくらいなら、私にも出来るわ」

こねこねニギニギすれば良いんでしょ?

ぐちゃぐちゃのボウルに、手を突っ込むのはちょっと抵抗あるけど。

そんなこと言ってられないものね。

「え、大丈夫ですか?出来ます?」

私、結月君に全然戦力としてカウントされてないのね。

なんか泣きたい。

まだ玉ねぎのダメージが残ってるのかしら。そうに違いない。

そりゃまぁ、現状全然役に立ってないから、戦力外通告されても仕方ないけど。

「じゃあ、お言葉に甘えて…星ちゃんさんにお任せしますね」

「よし来た!お任せ!」

私もシェフの助手として、ハンバーグを捏ねるくらいは、きちんとこなしてみせる。