星と月と恋の話

…と、思ったけど。

包丁使いが不器用なのは、私だけではなかった。

「ねぇ、星ちゃん」

結月君が玉ねぎを刻み終えたとき、真菜が声をかけてきた。

「ん、どうしたの?」

「ささがき、ってどうやってやるんだろう?」

…ささがき…?

…パンダの好物?

「ほら、見て。ゴボウはささがきにして、って書いてあるんだけど…」

真菜がレシピを指差しながら言った。

「ささがきってどういうこと?普通に切るんじゃ駄目なのかな」
 
「うーん…?何だろうね…。普通に切っても味は変わらないと思うけど…」

何なら、細かいこと気にせずぶつ切りでも…と思ったけど。

さすがにぶつ切りは駄目だ。

よし、こうなったら…。

「シェフ!お願いします!」

困ったときこそ、結月君に聞いてみよう。

そう思って、結月君に声をかけてみたものの。

「…」

結月君は、自分がシェフ呼びされていることに気づいておらず。

さて次の工程、とばかりに冷蔵庫からひき肉のパックを取り出していた。

こら、シェフ。返事をしなさい。

「シェフ!結月君!」

私は再度声を大きくして、結月君を呼んだ。

「わっ、は、はい。何ですか?シェフ…?」

ようやく気づいた結月君が、こちらを振り向いた。

あなたはシェフよ。自信を持ちなさい。

それはともかく。

「ねぇ、結月君。ささがきって知ってる?」

「ささがき?」

「真菜が困ってるのよ。ゴボウはささがきにしろ、ってレシピに書いてあるんだけど…ささがきって何?」

「あぁ、ゴボウのささがきですか…。ちょっと貸してもらえますか?」

そう言って、結月君は真菜の手からゴボウを受け取り。

ゴボウを下に向け、包丁をさながら彫刻刀みたいに使って、薄くこそいでいった。

おぉ。凄い。

なんて正確な手捌き。まさに熟練の腕前。

これがささがき…。そういえば、豚汁とか、和え物に入ってるゴボウは、こんな形状してるわ。

「はい、終わりました」

ものの数分で、あんなに大きかったゴボウが全て、見事薄切りにされていた。

早い。早いぞ。

「すご、助かったよ三珠クン。ありがと」

「いえ…。同じグループですから。困ったことがあったら聞いてください」

なんて頼もしいんだ。

私も言ってみたい。困ったことがあったら聞いて、って。

今のところ、困ったことがあったからって私に聞いても、もっと困ったことになるだけだ。

うーん、情けない。