星と月と恋の話

しかし。

「魚の下処理くらい…僕がやりますよ?包丁一本あればすぐ出来ますし…」

そんなことがどうした?みたいな顔で。

魚の下処理を自ら申し出てくれる結月君。さすが、かっけーです。

結月君がいなったら、私達は魚一匹に完全敗北するところだった。

…しかし、グループの意見は違っていた。

「やっぱり、魚なんてつまんないから嫌だ」

「だよなぁ。やっぱり肉料理が良いよな」

全国のお魚好き、大激怒。

でも私達、皆肉食系なんです。許してください。

「煮物とかダサくない?」

「だよなぁ。おばあちゃんの味じゃないんだから」

結月君の和食案、どんどん拒否されていく。

悪くないとは思うんだけど…。

やっぱりこういうときは、皆各々、自分の好きな食べ物を作りたい、って気持ちになるんだよね。

どうせ作るなら、好きなものを作りたいと思うのは自然なことだ。

とはいえ今回ばかりは、それが簡単なメニューであることに限る。

いくら作りたくても、時間内に完成させられないほど難しいなら、採用する訳にはいかない。
 
「何にする?トンカツとかどうよ」

早速、お肉案に移行。

トンカツとは。さすが正樹、ガッツリ系ね。

私も好き。

「トンカツより、俺は唐揚げの方が好きだな」

「あ、私も唐揚げ好きー」

隆盛と真菜が言った。

私も好き。

「いっそ天ぷらにして、野菜もお肉も揚げちゃおうか」

と、提案する海咲。

調理実習で天ぷらとは。なんて贅沢な案だろう。

良いね、夢膨らみそう。

材料費がとんでもないことになりそう。

すると、結月君がポツリと言った。

「…でも、皆さん初心者なら、いきなり揚げ物は危ないんじゃないでしょうか」

…ぎくっ。

…そうだった。

夢を語るのは良いけど、私達、皆素人なんだった。

台所に立ったこともない素人が、一人前に揚げ物に挑戦しようなんて、そんな危険極まりない無謀…。

考えた私達が馬鹿だった。

「じゃあ、初心者でも出来る料理って何よ?さっき言ってた地味な煮物にしろって?」

ことごとく反対意見を出されることに、イライラしたのか。

海咲が、またしても喧嘩腰に聞いた。

だから、そんなことで怒りなさんなって。

「そ、そういうことでは…。揚げ物はやめた方が良いってだけです…」

「あっそ、じゃあそうするわよ」

喧嘩はやめなさい、喧嘩は。

仲間割れしたってしょうがないでしょうに。

「揚げ物以外で肉料理か…。何かあるっけ?」

「うちは、肉料理と言えば揚げ物だもんな」

料理のレパートリーが少ない私たちである。

炒めもの全般行けるんじゃないかな?野菜炒めとか?

でも野菜炒めだと、ガッツリ肉料理、には程遠いわよね。

「あ、じゃあハンバーグにするのはどう?」

と、真菜が提案した。

ほう、その手があったか。

ハンバーグ美味しいよね。

あぁ、口の中に唾湧いてきそう。

「おっ、良いじゃん」

「揚げる必要もないしな」

だよね、美味しいし。

結月君をチラッと見てみたところ、何も言わなかったので。

シェフも納得、ってことで。