星と月と恋の話

「結月君、ボトムって何?」

「あ、えぇと…。チーズケーキの土台って言うか…クッキー生地の部分です」

あ、分かった。

「チーズケーキの下の、さくさくした部分のこと?」

「はい、そこです…」

そういえば、あるね。

何なら、上のチーズクリームの部分より美味しかったりするよね。

さくさくして、甘くて美味しくてさ。

あれってどうやって作るんだろう…?

「1から作るのは当然大変ですし、クッキーやビスケットを砕いて代用しても良いんですが、ビスケットを叩いて粉々にするには、やっぱり時間がかかるし…。その作業だけで、少なくとも一人はずっとかかりきりになってしまうと思うんです」

…そうなんだ。

ビスケットを叩いて粉々に…。

ストレス発散には良さそうだけど、確かに時間はかかりそうね。

「何?何だかんだ理由つけて、チーズケーキは駄目ってこと?さっき言ったあんみつにしろって?」

あれこれ駄目出しを受けた海咲が、刺々しい口調で言った。

そんな怒りなさんなって。

チーズケーキじゃなくたって、別のお菓子でも良いじゃない。

「い、いえ、そんなことは…」

「別に、多少時間かかっても良いじゃん。簡単レシピだけで作ったんじゃ、調理実習の意味ないし」

「す…済みません…」

海咲に畳み掛けられ、しゅん、と縮こまる結月君。

可哀想。

「別に良いじゃない、海咲。チーズケーキなら、いつでも食べられるんだし」

そんなことで結月君に凄むなんて、馬鹿らしいわ。

「それはそうだけど…」

「諦めて、他のメニューにしようよ。デザートなら他にも色々あるんだから」 

何でも良いじゃない、簡単で美味しいデザートなら。

しかし。

「…あの、でも、炊飯器で作れば」

と、結月君が意を決したように、声をあげた。

…炊飯器?

「結月君?」

「あの、炊飯器でチーズケーキを作るレシピがあるんです。前見たことがあって…。それならボトムは作らなくても良いし…。材料を混ぜて、あとは炊飯器に任せておけば勝手に焼いてくれるので…。そんなに手間はかからないです」

炊飯器でチーズケーキ…。

そういえば、私がまだ幼稚園行ってた頃、お母さんが作ってくれたことある気がする。

オーブンを使わない、炊飯器で作るチーズケーキ。

結構美味しかった記憶がある。

「それなら、チーズケーキでも作れると思います…。…ど、どうでしょうか」

海咲の機嫌を伺うように、結月君が聞いた。

これには、海咲も一瞬口を噤んだ。

そして。

「…分かったわよ。じゃあ、そうしましょ」

そうなるわよね。

さすが結月君。ナイス代替案。

やっぱり、シェフに聞いておいて良かった。

私達とは、料理に関する引き出しの数が段違いなんだもの。