昼間の電車の乗客は少なく、がらりと空いた車両に乗り込む。
「脚は大丈夫?」
「あれくらいじゃ折れないだろ」
「…本当に頭にくる、大悟の奴!」
「大悟って…本人に聞かれたら殺されるな」
いつの間にか大悟呼びになった私に田中くんは笑う。
良かった、笑ってくれて。
駅の階段を上がる時、田中くんは顔を歪めていたから、きっと脚に痛みがあるはずだ。少しでも気が紛れて欲しいと、話し続ける。
「本当に田中くん、ヒーローだったよ!かっこよかったよ、ありがとう」
「弱いヒーローじゃ、カッコつかないな。あいつの言う通り」
「みんなが見て見ぬふりだったけど、田中くんは助けてくれたじゃん」
私もいつも見ている側だった。
ああ、早く終わって欲しいなって思いながら、見ていた。
だから田中くんの行動は凄いと思う。
自分より力が強い者に立ち向かっていけるのは立派で、並大抵の人間にはできない。
隣りに座る彼を見る。
「本当にありがとうね」
「別に」
血は止まったようで良かった。
学校では人と関わりを持ちたくない田中くんが、私のために前に出てくれたことが、すごく嬉しくて。大悟に恐怖を抱いて、立ちすくむだけの自分が情けなかった。


