彼の真っ白なノートの右中央に書かれた『ウ』の文字。
たった1文字のそれは彼の優しさだ。
事前に当てられると教えてもらったのにすぐに対応できないなんて、どうしようもないな。
反省しながら、武藤先生の解説に耳を傾ける。
次に田中くんの順番が回ってきた時に備えて集中して授業に参加していたけれど、先生に当てられた次の瞬間には、あっさりと田中くんは答えを告げていた。
もちろん正解で、私の出る幕などなく…そもそも私の回答には自信がなかったし、力及ばすだ。
バリバリと仕事をしている母は優秀なのに、その賢さをひとつも受け継いでいないとはさすがに辛すぎる。
田中くんにダメな奴って思われたかな…。


