「ほら、桜誠!」
新谷くんが急かすと、田中くんはぼそりと言った。
「俺は、大悟と千咲から逃げてた。もう、逃げない」
田中くんは自身を装うことで、大悟から私を守ってくれていた。しかし田中くんと因縁があっても、大悟は私のことをどうこうするような人ではなかったのだ。今なら確信がもてる。
それでも1番悪いのは私だ。
出逢った夜のこと、初恋のことを、逃げずに田中くんに伝えていればもっと早く状況は変わったかもしれない。
私たちは随分と遠回りをしてしまった。
「次、千咲ちゃんと遥ちゃんもなにかあれば」
新谷くんは女子には強制しなかったけれど、控えめに手を挙げて言った。
「私、今回の定期試験の順位ね…200人中、150人でした。これでも1番いい順位です、恥ずかしながら…頑張ってるつもりでも結果にならなくて、こんな私が…って、いつも自分に自信がなくて。田中くんとも向き合えていなかった。でも、これからはちゃんと言うから。言いたいことはきちんと伝えるし、もっともっと勉強も頑張ります。実は、お母さんと同じ仕事に就くことが夢なんだ…だから諦めずに頑張る!」
決意表明になってしまったけれど、新谷くんは柔らかい微笑みで受け止めてくれて、田中くんは頷いてくれた。
「…遥はなにかある?」
急に照れくさくなって、遥に振ると彼女は少し悩んでから言った。
「私は隠し事ができない性格だから、敢えてここで言うようなことはないけど…でも、ひとつだけ。実は男子3人のことを"不思議御三家"って勝手に呼んでました」
「不思議御三家?それはなに?」
新谷くんから突っ込みが飛び、大悟は首を傾げた。
「俺のことをそう呼んでいたのは聞いたことがある」
田中くんは怪訝そうな表情をして言ったが、その内容を知っている私だけは、吹き出してしまった。
不思議御三家か…今はもうその呼び名が懐かしく感じる。
「説明するとね、不思議御三家の1人目は永井くん。あれだけ色々やって退学にならないのは何故って疑問だったから。2人目は新谷くん。こんなにイケメンなのに特定の彼女を作らないのには理由があるんじゃない?って思ってたから。3人目は田中くん…その、誰ともちゃんと話してるところを見たことがなかったから」
「あはは、不思議御三家かー面白いね!」
遥の説明に新谷くんは声に出して笑った。
全ての謎が解けた今となっては少しも不思議ではないけれど、あの時の私たちは互いのことを何も知らずにただ不思議と思うことしかできなかった。
でも今は、違う。
互いに尊重し合い、支え合うことだってできるはずだ。


