道案内をしながら進む。
悪いとは思いつつ、もう少し田中くんと話したい気持ちが勝つ。
「私、中学の時は広島にいたの。高校入学の2週間前にこっちに戻ってきて。あ、戻ってきたというのは、中学1年生の夏までは東京に居て。お父さんの仕事の関係でね」
ほとんど話したことがなかったし、私、青山 千咲についてまずは知ってもらおうと思った。転校も経験したし、相手と上手くコミュニケーションを取るためには自己紹介は欠かせないと思う。
「高校初日は不安だったんだけど、遥から話しかけてくれて。田中くんも仲の良い友達いる?…あ、美山高校でなくてもいいんだけど」
全く人通りのない夜道で、2人だけでゆっくりと話せることが嬉しい。
「いるよ。親友がひとり」
「そっか、そうなんだ。親友か」
良かった。
田中くんにも親友と呼べる相手がいて。
学校では誰とも親しくしていないから心配だったけれど、余計なお世話だったね。
「親友さんとどっか行ったりするの?男の子ってなにして遊ぶのかなって」
「んー、ファミレスとかゲーセンとか、バッティングセンターにもよく行くかな」
普通だ。おかしな話だけど、田中くんも普通の高校1年生なんだ。
遥は不思議御三家なんて言い方をしていたけれど、本当に普通の男の子だ。ただ学校嫌いなだけで。
「青山は?いつもこんな時間まで出歩いてるの?」
学校の外であれば同級生としてお喋りもできる。
今夜のことを遥に話せないのはとても残念だ。


