全身の細胞が活発に動き出したかのように、のぼせ上るような熱を帯びる。
ただでさえ蒸し暑い季節だから、額に汗をかく。
「…忘れられたかと、思ってた」
初恋は忘れて、今の田中くんを好きでいようと決意したというのに。まさか、覚えていたなんて。
「初めて会った日から、俺はおまえに心奪われてたよ」
「え?」
「青山は俺の、初恋だから」
闇夜に溶け込んでしまうかのように柔らかく心地よい声色。
その表情が知りたくて私は持っていたポーチからピン留めを取り出し、田中くんの前髪をまとめる。
やっときちんと見えた彼の目は優しくて、穏やかな顔だ。
「なかなか言えなくてごめん」
彼は私の右頬をその大きな手で包んだ。
「俺は、千咲のことが好きだよ」
好き…?田中くんが、私を、好き…?
私も、って返したいのに上手く口が動かず、ただただ田中くんを凝視していた。
「俺のことを優しいと言ってくれたけど、千咲だから優しくしてるんだ。他の奴なんてどうでもいいよ」
言うと同時に整った顔が迫り、
左頬に、彼の体温を感じた。
微動だにせず、頬に張りついた彼の唇を受け入れる。嫌がる理由など、なにもなかった。
「そんな可愛らしい格好で来て、俺をどうしたいの?すごく似合ってるし、可愛い」
「ッ、……」
至近距離で声をかけられ、その吐息がかかる。
にやっと笑った彼に両頬を挟まれ、上を向かせられた。そしてどちらともなく唇を近づける。
すぐに重なった温もりに、胸の奥が痛いほどに締め付けられた。
触れるだけのキスだったけれど離れる瞬間、彼は舌で私の唇をなぞった。
痺れるような電流が身体を駆け巡る。
「あんまり俺を誘惑しないで。我慢できないし、これ以上もしたくなるから」
「なっ…」
意地悪に笑って私の頬をつねった彼は、本当に私の知る田中 桜誠なのだろうか。
クールで、言葉数の少ない、彼は、此処にはいない。


