人並みに逆らい、花火の観覧用に用意されたベンチに座る。
花火の打ち上げが終了したため出店に向かう者や帰路を急ぐ者が多く、観覧席に残っている者は僅かだった。
「…俺が学校嫌いの理由、無理に話さなくていいって言ってくれたから正直、ホッとしたんだ…だってカッコ悪いだろ?大悟に静岡の仕返しをされて、京介や青山を巻き込んでしまったらと思うと怖くて。学校では目立たないようにしていたなんて、そんな腰抜けだなんて言えなかった」
それが、田中くんが学校嫌いの理由だった。
私の想像よりもずっと優しいものだ。
「…腰抜けじゃないよ。だって大悟と廊下でぶつかった時、助けてくれたよ」
「…弱いままの俺で、助けた。弱いフリして、中途半端に助けたんだ」
確かにあの時の田中くんは尻餅をついていたけれど、それも演技だったのか…。
「静岡の中学でも大悟は有名で、京介の知り合いから大悟が美山高校に入学することと、"田中"を探していることを教えてもらった。静岡で助けたクラスの奴が俺を"田中"と呼んでいることを聞いてたらしくて…それで俺の考えたことと言ったら、前髪を伸ばして目立たない生徒になることだった」
弱々しく語られる田中くんの学校嫌いの理由に、まさか大悟が関係しているなんて思いもしなかった。
「でも、田中くんがそうすることで傷ついた生徒は誰もいないよ?」
「…おまえは、傷つかなかったか?」
田中くんは身体を私の方に向けて聞いてきた。
「私?少しも傷ついてないよ」
「"同じ数学係だね"って、初めて声をかけてくれたあの日、初対面のフリして冷たく対応した俺の態度に傷つかなかったか?」
「……」
初対面のフリしてーー
その言葉が胸に突っかかった。
「美山高校まで会いに来てって、言ったのは俺の方なのに。素直に会いに来てくれてありがとうって、言えなかったんだ」
待って。それって、ーー過去のことを覚えていたの?
「青山 千咲。あの夜に出逢ったおまえのことを、忘れるなんてできなかったよ」
満月の夜の出逢い。
私の初恋の始まりを、彼も、覚えていてくれたんだ。


