「なんだよ…それで、どっち?」
「あ、こっち。でも送ってもらうなんて悪いよ」
「俺も同じ方に行こうとしてたから」
私が指差した方は田中くんの進行方向ではあるけれど、あの田中くんと一緒に帰る?
「行くよ」
歩き出した田中くんの横に並ぶ。
いつも下を向いている田中くんは華奢な体格も相まって小柄に見えていたけれど、160センチの私より遥かに高い。
「田中くん、学校とは雰囲気が違うね」
「学校は嫌いだ」
抑揚のない否定の言葉。
その理由を聞いてもいいものだろうか。
しかし次の一言で境界線を引かれた気がした。
「だから学校では話しかけないで。今夜のことも誰にも言わないで」
「…うん」
昔、学校で嫌なことがあったのだろうか。協調性が求められる学校生活は窮屈だと感じることが私にもある。そういうものなのだと凡人の私は受け入れてしまったけれど…。


