細い裏通りを行く当てもなく歩く。
バンドとは正反対のアイドルの歌を聴きながら、誰もいないことを良いことに歌詞を口ずさむ。
一番よく月が見える場所で、立ち止まり空を見上げる。闇夜に浮かぶ月を見ることが好きだ。
学校とか、勉強とか、人間関係とか、将来とか。そんな窮屈な日常から解放された気分になる。
大好きな曲がサビに突入して、口ずさむ声のボリュームを少し上げそうになったが、人影を感じてギュッと口を結ぶ。
夜遅くにひとりで歌ってたら、変人だよね。
立ち止まったままでもおかしいと思い、前方からやって来る人影の方に歩を進める。
徐々に見えて来る相手の姿に、男の人だと分かりーー更によく見ると、制服を来た男子で、
「田中くん?」
なんと、隣りの席の男子だった。


