腹痛を理由に遅れて教室に戻れば、愛ちゃんはいなかった。仕事を理由に早退することも多々あるため誰も気にしていなかったが、机の横に通学バッグがかけたままだ。
田中くんはいつも通り、俯き加減で授業を受けていた。私と目を合わすこともしなかった。
「大丈夫?」
「うん、治ったよ」
「戻ったらいないんだもん、心配したよ」
「ごめんね」
「顔色悪いね…無理しないでね」
落ち込んだ気持ちは回復せず、遥は腹痛のせいと思ったようだ。
とてもじゃないが授業に集中できそうにない。
昨日予習してきたはずの英語の小テスト前にして、なにも考えられなくなった。
ペンを持ったまま、俯く。
左から、前後から聞こえるペンを走らせる音に焦り、答えが出てこない。
『ーーだから嫌なんだ。一途な恋ってさ。傷ついて、すごく痛いから』
耳の奥で新谷くんの声が聞こえた。
そうだね。その通りだ。
田中くんが私のことを数学係としか思っていないと分かり、ショックだった。傷ついた。
でもそれが現実だ。
実らない恋心なんて無数にある。
私だけが苦しいわけじゃないと分かっていても、辛いな…。


