「新谷くんは愛ちゃんに抱き着いた時、なにを思った?」
まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったようで、新谷くんは首を傾げた。
ここは数学準備室から一番遠い階段で、普段から人通りが少ないことをいいことに本音が漏れた。
「愛ちゃんのこと可愛いなって、思った?」
「……まずさ、俺からじゃないよ。愛ちゃんから抱き着いてきたけど、なにも感じなかったなあ」
「え?」
「ローズ?のいい香りもしてたけど…男として、なにも感じなかったし、心も動かなかったかな」
茶化されるかと思ったけれど、新谷くんは意外にも真顔で答えてくれた。
「女の子の魅力って、顔が整ってるとか、スタイルがいいとか、そんなことだけ?」
「でも顔がいい方が、」
「じゃぁ君は、この顔を見てなにを思うの」
ぐっと、顔を前に出して新谷くんは満面の笑みを浮かべた。
「……綺麗だなって、整ってるなって、思うよ」
近くで見ても本当に肌綺麗で、ひとつひとつのパーツが完璧だ。
「それだけ?彼氏になって欲しいとか、好きだなって思うの?」
「思わない」
即答すると、新谷くんは私の鼻をつまんだ。
「そういうことでしょ。このイケメンを前にしても心なびかない君が居るんだから、愛ちゃんを見て全ての男が好きになるなんてありえなくない?」
確かに…。
もう一度、じっと新谷くんを見つめる。
カッコイイとは思うけれど、それ以上の感想は抱かない。新谷くんはテレビの向こう側の俳優のように、見ているだけで十分な存在だ。


