「大学3年生なんだけど、連絡先交換しちゃった」
「え、どんな人なの?」
「顔はね、今、ドラマに出てる男の子にすっごい似てるの」
4限は古典の先生が急遽休みになり自習を言い渡されたが、横田くん以外の生徒は好き勝手に自由時間を過ごしていた。
「え、どのドラマ?調べる」
携帯を取り出して、遥の合コン話に耳を傾けていると、隣りに人だかりができた。
「愛ちゃん、髪切ってあげる」
ここのところ愛ちゃんは毎日、学校に来ている。負けたくないという彼女なりの強い思いなのかもしれない。
「髪?」
「そうだよ」
クラスメートの女子がハサミを持って愛ちゃんの後ろに立った。
腰まである緩やかにパーマをかけた髪はよく手入れされて美しく、切るなんて勿体無い。
それは紙を切るハサミで素人が触っていいものではない。
「あたし、将来の夢が美容師だから切ってあげる」
「え、嫌っ」
「いいから、いいから」
遥も話を止めてクラス中が愛ちゃんを見ているのに、誰も止めようとはしない。
「止めて、本当に。私、映画の役のために切らないようにしてて」
「へぇ、映画にも出るんだ」
美容師になりたい言った女子生徒、あゆみちゃんは苛立ちを隠せない声色で言った。
「まぁ任せて。私が切ったら、もっとよくなるから」
「お願い、本当に止めて」
ーーこれは、止めるべきだと思った。
いくらなんでも嫌がる相手に刃物を向けるのは危ない。


