開け放たれた窓から校庭でサッカーをしている生徒のかけ声が響く。その呑気な昼休みと比べて、こちらはピリピリとした空気が張り詰めている。
「文句ある奴がいるなら、手ぇ挙げろよ」
そう発せられたものの、手を挙げられる者がいないことを永井は分かりきっているのだろう。クラスを見渡しもせず、教卓の前の席に置いてあったスナック菓子を掴む。
その様子を横目で観察する者、俯いて目を合わせないようにしている者の2択に分かれた教室で、もちろん手を挙げることも声を発する者もいなかった。
喧嘩になれば永井に勝てないことは分かっているし、仮に勝てたとしてもどんな手段で仕返しをしてくるか想像できない。つまり、関わらないことが一番いいのだ。
同じ1年生にも関わらず、永井は不動の地位を築いていて、最初から彼に反発する者はいなかった。
「つまんねぇ奴ら」
ぼそっとそう言って、永井はスナック菓子と共に消えた。
大きな足音が聞こえなくなった瞬間、教室中に安堵のため息が漏れる。
そして今の出来事がなかったかのように、各々おしゃべりを再開した。


